第15話―深淵の月蝕
「そんじゃあ、行くぞ?――始めッ!」
「「〚劫炎獄熱波〛」」
開幕と同時に僕達は互いに同じ魔法を行使する。まずは様子見。リーデンの行使した【火魔法】の最高等魔法は、僕のソレとレベルは同程度だ。
地獄の炎がぶつかり合い、激しく爆発して相殺される。
「なるほど、良い魔法です」
「〝魔女の末裔〟に褒められるとは光栄。だが、まだまだこれからだろう?〚狂飆雷霆嵐〛」
「ほう?最高等魔法の並行行使ですか」
二つの雷の降り荒ぶ黒き嵐が顕現する。それらは合わさり一つの大きな黒嵐となって僕へと迫る。
「では、〚激流轟穿弾〛」
「これは………」
僕は先の尖った水弾を生み出す。その数、およそ千。元々〚激流轟穿弾〛の強みはそのコンパクト性にある。〚劫炎獄熱波〛などのように一撃必殺型ではなく、連射による多撃必倒型なのだ。
僕の放った水弾は、眼前に迫る黒嵐を消し、さらに残った水弾をリーデンへと飛ばす。
「……クッ、〚岩壁〛」
彼は岩塊の壁を五つほど生み出し、水弾を受け切る。それに僕は少し驚く。
「………並行行使をしながら、よく今のを中級魔法で受け切りましたね。魔力操作は文句無しですよ」
「そこまで褒めていただけるとは。毎日訓練していた甲斐があったというもの。だが……そちらはまだ本気ではないようだ。私では相手として不足かな?」
「ご安心を。今までのは様子見ですので。ここからは――本気で行かせていただきますよ?」
僕は言葉と同時に、[多重無詠唱]にて十ほどの獄陽を生み出す。
「何と……。本気ではないと思っていたが、ここまでとは………」
「僕の固有技術、[多重無詠唱]ですよ。では、準備は良いですか?」
「………[融合魔法]、〚劫炎轟穿弾〛」
「……ほう?では――勝負です!」
この窮地で新しく魔法を生み出すとは。一撃必殺の【火魔法】と多撃必倒の【水魔法】、二つのハイブリッド。威力はそのままに、【水魔法】の速射性を付与。なるほど、たしかにそれならばこれぐらいは相殺できる。
僕の考えを証明するかのように、獄陽が獄熱の炎弾によってやがて完全に相殺される。
「考えましたね!その魔法、そして発想、どちらも大変面白い。では、今度は……僕も攻撃に参加しますよ?」
言いながら、[多重無詠唱]で今度は〚激流轟穿弾〛を行使する。生み出した水弾の数、三千ほど。僕は更にそこから一手間加える。
「その発想性への称賛を込めて、僕も少し趣向を凝らしてみましょう。〚激流轟穿弾:一極〛」
「………ッ!?」
僕は生み出した水弾をまとめ、一つの巨大な水弾に変える。彼の行使した〚劫炎轟穿弾〛は、威力と速射性に注目して完成した、いわば固有魔法だ。では逆に、属性はそのままに、ただひたすら威力のみに注目するとどうなるか。その結果が、この魔法だ。
驚くリーデンに向けて、巨大な激流弾を発射する。
「ッ!『月護ノ王』、〚月光の加護〛ッ!」
瞬間、優しい光が辺りを包み込む。その光は、刹那の内に巨大な水弾を消し去る。だが僕はそれを気にせず、彼に向けて突進し、左脇からの中段斬りを放つ。だが、それは彼の持つ刀によって止められる。
「……なるほど、仕込み刀、というやつですか。初めて見ました」
鞘となっている杖から少しだけ刀身を出し、その部分で僕の剣を受けていた。
「左様。普段は魔法のみで、あまり出しはしないのだが、魔法で勝てないとなると、どちらも使わねば」
「道理です」
僕は一つ笑って距離を取ると、彼は改めて抜刀する。
「では、今度はこちらから行かせてもらう!」
先ほどの僕と同じように突進し、彼は真っ向から斬り下ろしを放つ。それを踏み込みつつ回避し、もう一度中段斬りを放とうとした、その瞬間。
僕の腹に、右手が添えられている。
――マズい!!
「〚劫炎獄熱波〛ッ!!」
轟音。直後の爆発。
少し間が空いた後、場内が歓声で満たされる。皆、リーデンが勝ったと思っているのだろう。だが――
「馬鹿者共!!まだ終わっておらん!!」
「――流石ですね、よく解っておられる」
煙が晴れると、僕は無傷で立っていた。あの瞬間、〚幻身顕現〛にて自身の幻想体を生み出し、それを身代わりとして回避したのだ。
「……これも見抜けないとは。あいつらは後で扱かなければな」
「フフッ、その時は少し見させていただきましょう。さて……長くなってしまいましたね。そろそろ、終演としましょう」
「うむ。……凜榴錫杖、相伝・伍ノ刃――」
「影淵剣、極致其の拾――」
リーデンの刀が淡く金色に光ると同時に、空を闇が閉ざす。その闇は次第に漆黒の魔剣へと集まっていく。
「――“冰牙月閃”ッッ!!!」
「――“刃鏖滅天”ッ!!」
月光の如き金色の冰刀と、尽くを滅ぼさんとする漆黒の剣がぶつかり合う。その衝撃で地面が凹み、周りの騎士たちが吹っ飛ばされかける。互いに一歩も引かない鍔迫り合い。その様子は互角に見える。だが、僕の剣の闇が、月光をも蝕み、吸収していく。
「何っ……!?」
「セアッ!!!」
ついにその拮抗が崩れ、彼の刀を弾き、その勢いのまま一回転、彼の首に剣を突きつける。
「――そこまでッ!!勝者、〝紫〟の弟ッッ!!」
――………貴方一応僕の名前知ってるはずなんですが……。