第14話―月光は深淵に凛と咲く
「そこまでッッ!!勝者――ラグナッ!!」
一瞬の沈黙。そしてすぐに、ワッと場内が歓声に包まれる。「ヤバすぎだろ」「何だよあれ!?」と、皆が驚愕と興奮の入り混じった声で感想を口にする。それほどまでにこの戦いは凄かった。
「天晴れだ!!楽しかったぞ、クライア殿!」
納刀し、魔法陣へ収納したラグナ殿が、豪快に笑いながらクライアに手を差し伸べる。
「ええ。いい勝負でした。………聖剣を破壊されたのは、予想外でしたが」
クライアはその手を握って立ち上がりながら言う。
「申し訳ないことをした。だが、心配は無用だぞ?魔剣や聖剣には、“魂”が破壊されない限り、自己治癒能力があるからな。それが、魔剣や聖剣が意思を持っていると言われる所以だ」
「そんな能力が……」
「だよな?ヴァイ殿」
「ええ、その通りです。視た感じ、“魂”まで砕けてるわけではないので、数日置いておけば完全に再生するはずです」
周りがざわつく。恐らく知らなかったのだろう。僕は彼に近づきながら、一つの魔法を行使する。
「それでも、暫く不安なようでしたら、青龍刀が使えるようになるまではこちらをお使いください。〚幻想創造〛」
「これは………」
僕は二本目の青龍刀を創り出し、クライアに手渡す。彼はその手に握っていた、柄のみとなった青龍刀を魔法陣へと収めて受け取ると、目を見開く。
「青龍刀……。しかも、手に馴染む」
「魔力で創った模造品なので、聖剣としての力が宿っているわけではありません。あくまで繋ぎとしての代用品ですので、その点だけご注意を」
「いえ、オリジナルと同レベルで扱いやすい。感謝します」
僕の行使した魔法を見て、シュタリウス王が呆れたようにため息を吐く。
「何でもありだなその魔法……。さて、と。んじゃ次は〝紫〟の弟、お前さんだな。リーデン」
「リーデンだ、今日はよろしく頼む」
「ヴァイです」
僕達は軽く握手をすると、一定の距離を取る。それを確認したシュタリウス王は一つ頷く。
「そんじゃ、二戦目だ!ルールはさっきと同じだ。二人とも準備はいいか?」
「ええ」「問題ない」
「うっし。じゃあ、両者、抜剣!!」
「……久しぶりですね。深淵に溺れろ、影淵剣アビスレイジ」
もはや何度目とも判らない驚嘆の声が周りから上がる。リーデンもその眉をピクリと上げて僕の握る魔剣を見やる。
「黒い剣身……。珍しい剣だな。それに凄まじい業物だ」
「お褒めに預かり光栄です」
「うむ。ではこちらも――凛と咲き誇れ、凛榴錫杖リアティス」
「……なるほど、魔法使いですか」
召喚されたのは、剣ではなく、杖。先端には赤い椿が咲いており、その中央に桃紅色の小さな宝玉が、まるで蕾のように付いている。
「うむ。聞けば、貴殿は〝魔女の末裔〟とのこと。であるならば、魔法で勝負したいところ。勿論、剣は使ってくれて構わない。いかがか?」
「……なるほど。そうと言われたら、乗らないわけにはいきませんね。謹んで、お受けしましょう」
「ありがたい。それでは改めて、よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
僕達の話が終わったのを察したか、その手を僕とリーデンの間に手を出し、僕達の顔を交互に見る。
「そんじゃあ、行くぞ?――始めッ!」