第12話―蒼天に凪ぐ龍
翌日。
朝食後、僕達は部屋でくつろいでいた。そこにコンコンコン、と扉を叩く音がした。
「どうぞ」
「失礼致します。皆様、シュタリウス陛下がお呼びですので、執務室へご案内致します」
「……?解りました」
僕達は一度顔を見合わせる。シュタリウス王が呼んでいる。一体何だろうか。
給仕の人について行くと、そこにはカレン様達もいた。
僕達を見るなり、シュタリウス王は椅子から立ち上がる。
「おう。全員揃ったな」
「どうしたのじゃ、急に呼び出して」
「まあまあ、そう焦んなって。今から説明するからよ」
そう言ってシュタリウス王は、僕達の前に出る。
「さて。今からお前さんらを、訓練場に案内しようと思う。そん時に何人か模擬戦することになるだろうから、まあ軽く準備しといてくれや」
「また急ですね……」
僕の呟きに、シュタリウス王はニカッと笑いながら答える。
「剣を交えることによって見えてくるモンもあるもんさ。じゃ、行くぞ」
シュタリウス王に続いて僕達も執務室を後にする。それから少し歩き、連れられてきたのは外にある、かなり大きい、天井のない建物だった。
「着いたぜ。――おうお前ら、やってるか!」
彼の声が聞こえた瞬間、訓練中の者達が皆一斉に跪く。
「「「応ッッ!!!!」」」
「……鍛えられてますね」
「ガッハッハ、そうだろう?俺の直属の配下、まあつまり近衛騎士団だ」
先ほど跪く時のあの動き、そしてその素早さ。かなり鍛えていることが見て取れる。その数千といる団員見ながら、シュタリウス王が名前を呼ぶ。
「リーデン、クライア、いるか?」
「「は、ここに」」
「……ふむ」
「ほう?」
「……なるほどな」
シュタリウス王が呼ぶと、その瞬間に彼の前に現れる。その様子や身体の状態、魔力などを観察すると、中々手強い相手だと言うことが判る。現に、姉さんやラグナ殿も少し驚いているようだ。
「こいつらは俺の両腕、左からリーデンとクライアだ。せっかくだし、この二人と……そうだな、〝紫〟の弟、それとそこの珍しい服を着てる嬢ちゃん、一丁仕合ってみてくんねえか?」
「いいのか!では私はクライアと言ったか、彼との模擬戦を希望する!」
さすがラグナ殿、食いつきが早い。彼女の言葉に、シュタリウス王がピクリと右眉を持ち上げる。
「ほう?まさか〝剣聖〟を選ぶか。これは面白そうな戦いになりそうだなあ、クライア?」
くつくつと喉を鳴らして笑いながら、シュタリウス王は右の青年に問いかける。
「ええ。中々手強そうですし、ね」
「よーしじゃあお前ら、外周に寄れ!いいモンが見れるぞ!」
パンパン、と手を叩きながら中央を空けるよう促すと、皆瞬時に散らばって行く。その様子に少し感嘆しつつ、空いた真ん中へと歩く二人を見つめる。
「じゃ、立会人は俺が務めよう。ルールは真剣で、寸止めか降参で決着だ。異議のある者はいるか?」
「問題ない!」「問題ありません」
二人の返答を確認し、シュタリウス王は頷くと、右手を二人の間に下ろす。
「うっし、じゃ――両者、抜剣!!」
「目醒めろ、我が内に眠りし龍よ!狂い咲け、今こそ覚醒の刻ッ!絶龍刀、ミコトサキッ!!」
周りの騎士から、おお……という感嘆が漏れる。やはり、誰が見ても一目で解る業物故だろう。対するクライアは。
「吼えろ、青龍。我を守護せし蒼光は、時に猛り、時に凪ぐ。それは美しく、それは荒々しく。聖なる海に響く咆哮は、汝に裁きを下さん!轟け――青龍刀、ソウテンノナギッ!!」
クライアによって召喚された得物は、息を呑むほどに美しかった。青く輝く刀身。ゆるやかに入った反り。刃に映る刃文。ラグナ殿と太刀と違うのは、その刀身が、切っ先に向かって幅広になっている。全体的に華奢で美しい絶龍刀。幅広の刀身で荒々しくも見える青龍刀。剛と柔が対照的に可視化したような仕合いに、開始前だが既に僕は見入っていた。
「……ほう?貴殿も刀使いか。これは面白い」
クライアの刀を見たラグナ殿が、ニヤリと笑う。
「お前ら既に楽しんでるな?まあいいや。じゃあ――始めッ!!」