第8話―隠された三つ目の次元
僕達は大勢の人混みを掻き分けながら歩く。一応変装のつもりなのか、フードを目深に被ったウルに着いて行くと、やがて王城の門の前に到着する。門には二人の見張り役が立っている。彼らの技量は……まあまあといったところか。人間基準としては凄いのかもしれないが。
「ただいま、二人とも。門開けてもらえる?」
「これはこれはウル王女殿下。もちろんですが……その方達は?」
仕事はしているようで、彼らも少し僕達の事を警戒しているようだ。睨むわけでもないが、少し眼を細めながらウルに訊ねる。
「客人よ。多分この後改めて紹介があると思うけれど、重要な方達だから、くれぐれも丁重に」
ウルがそう言うと、二人は警戒を解き、その手に持つ大槍を地面に突き立てるように戻す。
「なるほど。かしこまりました。ようこそ、サザンクロス城へ。どうぞごゆっくり、お寛ぎください。それでは――開門ッ!!」
門番の一声で、ゴゴゴ………と唸りながら門が開く。やがて完全に開くと、二人の門番は脇に避け、僕達に入るように促す。
「ありがとう。じゃあ皆、行きましょう」
そう言ってウルはスタスタと淀みなく歩く。僕達も彼女の後を追う。
「……さっきまであんなにモジモジしてたのがまるで嘘みたいだな」
姉さんがそんなことを僕に耳打ちしてくる。僕も同感だと頷く。
「ですね。まあ、城の方達とはある程度の交流はあるでしょうし、人見知りはあまりしないというのはあるのでしょう。にしても外と城とでここまで違うものかとは思いますが」
「フッ、同感だ」
そんな事を話しながら歩いていると、目の前に途轍もなく大きな扉が見えた。
扉の前でウルは止まり、こちらに振り返る。
「さて。ここが玉座の間よ。多分、そんなに畏まらなくてもいい……って父上は言うと思うわ。実際、そんなに気負わなくていいわよ」
「相解った」
代表してカレン様が返事をする。ウルがそれに頷き、扉を見据え、声を上げる。
「陛下!ウルシア・リル・ウル・サザンクロス、お客人を連れ帰城致しました!!」
ウルの言葉に、扉の向こうから声が聞こえる。
「大義であった。入るが良い」
王の言葉と同時に、目の前の大扉が開く。人が通れるほどに開くと、ウルが歩き始めるので、それに倣って僕達も歩く。
やがて玉座に座るシュタリウス王の前まで来ると、僕達は跪こうとする。
「まあまあ、そんな固くなるなって。さっきのはあくまで形式みたいなもんだからよ。他国の人間に跪いてもらおうなんて考えちゃいねえさ。ましてや、そこには魔王もいるみてえだし……な?」
「……ほう?妾達の存在を既に見抜いているとは。お主、もしや“覚醒”しておるな?」
二人の王が睨み合う。お互いの思考を見抜かんとばかりに、その眼の奥を見つめる。
「まあな。詳しくは言わねえが、確かにお前さんの言う通り、俺ぁ“覚醒”してるよ。もっと言うと――」
彼は一度自身の右目をその手で覆う。すぐに手を外すと、その眼に魔法陣が浮かび上がっている。
「「「なっ……!?」」」
「魔眼、だと………!?」
僕達は驚きに眼を丸くする。僕達の反応に対し、シュタリウス王は人差し指を振りながら答える。
「ちっと違うな。コイツは“霊眼”っつってよ。精霊に祝福された者だけに与えられる眼なんだ。まあ、魔眼と似て非なる眼、ってところだ。ちなみに、俺のこの眼は“深奥の霊眼”っつー、まあ言わば読心系の眼だ」
「精霊………?」
僕達は聞きなれない単語に首を傾げる。精霊……聞いた感じ恐らく何かしらの生物だろうか。
「あれ?お前ら知らねえのかい?生きとし生けるものを導く存在、それが精霊だ。ま、たまにイタズラしてくる奴もいるけどな」
そう言ってシュタリウス王は苦笑する。
そしてここで、彼から衝撃の事実が明かされる。
「んでまあ、今俺の国とお前さんらの国は二つの次元で隔てられてるだろ?この世界を構成してんのは何も俺たちの二国だけじゃあない。隠された三つ目の世界の次元。それが、“精霊界エニスィテューレ”だ」