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第7話―“聖界”の王女

「俺が、この国の王――シュタリウス・リル・ウル・サザンクロスだ」

「「なっ………!?」」


 姉さんとラグナ殿が驚きで固まる。僕は何があってもいいように、その場で影淵剣アビスレイジを握る。


「そんな物騒なモン出すなって。別にアンタらを襲ったりしねえよ。俺が招待したんだしな」


 肩をすくめながら話すシュタリウス王。だがそれでも、僕は警戒を解かない。


「どうでしょうね。わざわざ宣戦布告し、自分達は敗戦したにも関わらず、その敵国の者を招待するなんて、真っ当に考えれば正気の沙汰ではありませんよ?」

「ガッハッハ、それもそうだな!」


 シュタリウス王は豪快に笑う。どこか掴めない。警戒は解かないように意識しているのに、妙に引き込まれそうになる。これが王たる所以か――などとなぜか納得してしまう自分がいる。


「それで、僕達に何の用なのです?」


 僕が睨みながら答えると、彼はキョトンとした表情を浮かべ、首を傾げる。


「いや?ただコイツが悲鳴上げてたから駆けつけただけだ。そしたら偶然、アンタらがいたってことよ」

「……なるほど」


 ――それなら今すぐに何かしてくることはなさそうですね……。


 そう考え、僕は構えていた剣を下ろし、少し警戒を解く。

 突如、シュタリウス王が思い出したように、手のひらに拳を落とす。


「おっと、そうだ。娘の紹介がまだだったな。俺の娘、まあつまり王女だな、のウルシアだ。ほら、挨拶しな」


 そう言って王女――ウルシアの背中を押し、前に出す。


「え……、えと、み、皆様、ご………、ごきげんよう、ウルシア・リル・ウル・サザンクロスですわ。ウ、ウル、とでも、お呼びくださいまし」


 途切れ途切れながらも、何とか挨拶をする。


「……全く。相変わらずだなぁ。すまねえ、この通りかなり人見知りでなあ。王女だってのに、これから先一体どうするんだ?」

「うぅ……、だってぇ………」


 シュタリウス王の言葉に涙目になるウルシア王女。それを見た途端、シュタリウス王の顔がその強面からは想像できないほどに綻ぶ。


「しょうがねえな〜、ったくよお〜!」

「「「……………」」」


 ドン引きとはこの事だろうか。恐らく僕以外の2人も思っただろう。恐らく貴方のせいだろ、と。

 彼は僕達の顔を見るなり、咳払いして誤魔化そうとする。


「……ま、まあそういうことだ。こいつらは俺が連れてくよ。じゃ、城で待ってるぜ。ウル、彼らを案内してやれ。なァに、悪いようにはしねえだろうよ。それに多分、まだ連れがいるんだろ?そいつらとも合流して、この国を楽しませてやりな。じゃーな!」

「ふぇ……っ!?ちょっと、父上!?」


 シュタリウス王はそう言うと、大男五人を担ぎ、人混みの中へと消えていった。


「えーっと……どうしますか?」

「う……。と、取り敢えず、お仲間がいるんです、よね?そちらに合流しましょう」


 ウルの言葉に僕は頷く。


「では、そちらに行きましょう。カレン様達が待っているでしょうから」


 そうして僕達は裏路地から出て、先ほど走ってきた道を戻る。すると、アリオス達が屋台の前で待っていた。


「ね?言ったでしょ?」

「まあ、彼らなら基本的に負けることはないか……」


 何故か自慢げなカレン様。額に手を当てて苦笑するアリオス。……相変わらずどこか様になっていて少しイラつく。


「おかえりー!ってあれ?その子は?」

「……っ!」


 急に近くに来たジャック殿に驚いたのか、僕の背後に隠れる。


「あ、びっくりしちゃったかな?ごめんね。ボクはジャックって言うんだ!よろしくね!」

「えっと……ウルシア、です…。よ、よろしくお願いします……」


 恐る恐るといった様子で僕の後ろから出てきたウルは、ジャック殿と握手を交わす。


「ねえねえウルちゃん!この辺に広い所なーい?」

「ウ、ウル、ちゃん?あ、え、ええと、あっちの方に……」

「よーっし、一緒に遊ぼー!」

「えっ、えっちょっ………きゃあああ!!!」

「……行ってらっしゃいませ」


 僕は苦笑しながら手を振る。もはや声をかける暇すらも無かったのだから、こうするより他にはないだろう。


「相変わらず、天真爛漫だねー」

「まあ、平常運転ではありますね」


 ケタケタと笑うカレン様。隣で頷くラグナ殿。僕と姉さん、アリオスは顔を見合わせ、やれやれとばかりにため息を吐く。


「……それにしても、何で王女がここに?」


 先刻の戦いに参加しなかったアリオスが問うてくる。彼の問いに、姉さんが肩をすくめながら答える。


「さっきの大男だよ。あのクズ共に襲われてたのが、彼女だった」

「また何であのお方はこんな所を一人で歩いてるのか……」


 またもため息を吐き、その手に持つジュースのような物を飲むアリオス。


「んで気絶させたところで、親父さん……つまり国王に会ったぞ」

「――ブハッ!!は、は?シュタリウスに?何で?」


 唐突な姉さんの爆弾発言(?)に、アリオスは飲んでいた物を吹き出す。


「きったねえな!……何でも、彼女の悲鳴を聞いたもんだから、アイツも駆けつけたんだと。んでなんか今こうなった」

「あの人も国王のくせに街中ほっつき歩いてたのか……」


 アリオスは三度みたびため息を吐きながら首を振る。


「まあそんなわけで、彼女が街を案内してくれるそうですよ」

「……なるほどね。じゃあ取り敢えず、ジャック達のいる場所に行こうか」

「ええ」


 そう言って僕達は二人のいる場所へ歩いて行く。やがて開けた場所に出ると―


「ウルちゃんいくよ!そーれっ!」

「わあ……!すっごーい!!」

「「「えぇー………」」」


 ――そこには、既に打ち解け、一緒に遊んでいる二人の姿が。


「……やっぱり、ジャックのコミュ力には目を見張るものがあるわね」

「……驚きどころじゃないですよ……」


 絶句していると、僕達に気付いたのか、二人が駆け寄ってくる。


「やっと来た!じゃあ、そろそろ街の案内お願いするね!」

「はーい!じゃー、まずはこっちね――」


 それから暫くは、色々な所を回った。屋台。武具屋。骨董屋。古本屋。かなり充実した時間になった。


「どう?楽しめたかな?」


 彼女の問いに、僕達は口々に答える。


「ええ。大変面白かったです」

「またお願いしたいくらいだね」

「まだまだ掘り出し物もありそうだし」

「面白そうな魔導書もあったしな!」

「すーっごく楽しかった!」

「次も楽しみだな!」


 僕達の返答に、彼女はニンマリと満面の笑みを浮かべる。


「それはよかった!じゃあ――」


 初めて見る、王女としての表情かお


「――そろそろ、王城に向かおっか」

「……ええ」


 踵を返して歩き始める、彼女の後を追う。いよいよだ。あの場所に、必ず、何かしら手がかりがあるはず。

 僕は少し物思いに耽りながら、王城へと向かって行った。

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