表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/157

第6話―邂逅

 “聖界”へと続く門へ入り、十数分ほど光の道を歩いた頃、ついに光の出口が見えてきた。


「さあ、そろそろ出口だよ。準備はいいかな?」

「愚問じゃ」「愚問です」「「愚問だな」」

「……仲良いねぇ」


 声を揃えて返答する僕達に苦笑するアリオス。口に右手の甲を近づけて笑う仕草がどこか様になっていて、少しイラッとする。


「……いてっ。何だよ?」


 僕がその肩を少し小突くと、アリオスから不満の声があがる。


「いえ。何でも」

「あ、おいっ、道判るのかー?」


 言って僕はまた歩き始めたが、彼の言葉に戻ってくる。

 その様子に姉さんとジャック殿が笑い、カレン様とラグナ殿は笑いを堪えている。


「全く……。ほら、そろそろ出るよ」


 アリオスの言葉と共に、光の道を抜け出す。

 僕達の眼に映ったのは――


「――草原?」


 そこに広がるのは、ただひたすらに青々と生い茂る草原。アリオスはその中を、迷いのない足取りで進む。


「……おい、どこに向かっているんだ、これは?」


 步けども歩けども眼前に広がるのは草原のみで、姉さんは少し苛立ってきたのだろう、その語気が少々強くなっている。


「まあまあ、もうすぐだから、ね?」


 アリオスは飄々とした様子で姉さんを宥めながら歩く。

 さらにもう暫く歩くと、アリオスが急に立ち止まる。


「……さて、ここを超えたら〝防衛門ゲート〟がすぐに見えるんだけど。君たちの姿だと、多分城に着く前にお縄になっちゃうだろうね。ってことでヴァイ君、認識阻害系の魔法とかあったりする?」


 僕は急に話を振ってくるアリオスに困惑しながらも答える。


「え、ええ。魔法では無いですが、僕のスキルの権能でありますよ」


 僕の回答に彼は頷く。


「よし、じゃあ人間に見えるようにしてもらっていいかな?」

「それは構いませんが……あまり特徴を覚えてないので、貴方の記憶を少し覗かせて頂きますが、いいですか?」

「あー……、まあ、いいよ」

「……?」


 彼は少し渋るような表情を見せる。僕はそれに少し疑問を感じながら、彼の額に手を翳す。


「では、いきますよ。――『夢幻想神フギンムニン』、〚追憶の軌跡トレース・リコレクション〛」


 彼の記憶から、人間の姿を視る。僕らとは違うのは、耳の形。彼らのソレは丸みを帯びており、我々魔族のように尖っていない。それくらいだろうか。あとは……魔力の波長?かなり弱々しく、感知がしづらそうだ。特徴としては、それくらいだろうか。人間の特徴を読み取った(トレースした)僕は、権能を解除しようとする。だが、その瞬間、妙な記憶のカケラが漂う。


「………?」


 僕は気になり、その記憶を少し覗いてみる。その瞬間――


「――ッ!!」


 何かに弾かれたように、僕は吹き飛ばされる。


「「ヴァイ!?」」

「すみません、大丈夫です。………今のは、一体………」

「?何かあったのかい?」


 当人の彼は何も無かったのようにキョトンとしている。


 ――となると、あれは、封印された記憶……?でも、なぜ?何の為に?それに、一瞬だけ見えた、儀式のようなもの。今回の件に関係している?


 僕は思考の沼に沈みそうになったが、かぶりを振りながら立ち上がる。


「いえ、何も。すみません、読取トレースはできたので、皆さんにかけますね。――『夢幻想神フギンムニン』、〚幻視ハイドランス〛」


 僕は新たに権能を行使する。すると、アリオスを除く皆の耳が丸くなり、さらに他人から視える魔力がすこし弱々しくなる。……魔力に関しては、皆普段から抑えているため、大して変わってはいないが。

 僕らの姿を確認したアリオスは微笑みながら頷く。


「うん、いい感じ。それじゃあ、準備も整ったし、いよいよ国へ入るよ」


 アリオスの言葉に、僕達は頷いて答える。

 アリオスを先頭に、幻惑の結界らしきものから出る。

 そして、僕らの眼に映ったのは――


「おお……」

「これは………」

「でっ……か〜……」

「壮大、の一言に尽きるな……」

「幾久しく来たが、変わったの」


 高々と建ち並ぶ建物の数々。

 その下を行き交う、大勢の人だかり。

 市場のような場所なのだろうか、道端に様々な出店が並ぶ。


「せっかくだし、少し楽しんで行こうか。おいで、美味しい店、教えるよ。人が多いから、俺から離れないようにね?」


 そう言ってアリオスは人混みを掻き分けながら進んで行く。僕達も見失うまいと後を追う。

 そして彼が立ち止まった場所は、出店の一つだった。


「おっちゃん、ティアルテーム人数分」

「あいよっ……ってアリオスじゃねえか!久しぶりだなあ!元気してたか!」

「ちょっ、声でかいって!お忍びなんだから!」


 アリオスは屋台の店主に、人差し指を口元にやりながら注意する。


「おっとこりゃあすまねえ。お詫びにまけとくからよ、それで勘弁してくれ」

「助かるよ、ありがとう。また暇があったら来るよ」

「おう。毎度あり!」


 彼は店主から肉の串焼きのようなものを5つもらうと、僕達に渡す。


「これが以前食べてた、ティアルテームってやつ。色んなスパイスを効かせた肉串だね」

「ふむ!これは美味そうだな!」

「ありがとうございます」


 皆かなりお腹が空いていたのか、一斉にかぶりつく。


「……美味しい」

「これは絶品だな!ヴァイよ、“魔界《向こう》”に戻ったら再現できないか!?」

「多分、できますよ。帰ったら試してみましょうか」

「ホントに!?ボクも食べるー!」

「私にも分けてよね!」

「よければ私にも貰えないだろうか」


 皆好きなのか、口々に求めてくる。


「解った、解りましたから!とりあえず食べましょ、ね!」


 そう言って、僕も食べていると。


「――きゃああああああぁぁぁあああ!!!!」

「「「!?」」」


 どこからか悲鳴が聞こえてきた。


「アリオス!」

「多分路地裏だ!でもどこか――」

「そんなもの片っ端から探せばいいでしょう!行きますよ!」


 僕はアリオスを置いて走り出す。


「あっおい!……お人よしなんだからさ……!」

「彼らに任せてるといいよ、そのうち帰ってくるしさ」

「ええ……。まあ、貴女がそう言うなら……」


 彼も僕の後を追おうとするが、カレン様が引き留めたようだ。

 僕は人混みを縫いつつ、ラグナ殿に走りながら振り向く。


「ラグナ殿!」

「ああ、見つけたぞ、左だ!敵は五人!」

「ナイスです!」


 僕達が曲がると、ちょうど若い女性が両腕を大男に掴まれ、身動きが取れない状況だった。


「クズ共がっ……!ヴァイ!」

「ええ!」

「「〚精神拘束スピリチュアルバインド〛ッ!」」


 僕と姉さんは同時に魔法を行使する。


「――極致其の壱、“雷龍閃斬らいりゅうせんざん”ッ!!」


 ラグナ殿の極致で、五人は瞬時に倒れる。


「本来ならば刀の錆にする所だが……。ここは“魔界”ではないのでな。これで勘弁してやろう」


 言いながら、ラグナ殿は刀を仕舞う。


「……さて、と。大丈夫ですか、お嬢様?」


 僕が訊くと、彼女は頷く。


「間に合ってよかった。気をつけるんですよ?では、僕達はこれにて」

「あっ……!待って……!」


 僕達が去ろうとすると彼女は引き留める。


「?どうかしましたか?」

「えっと……、その……」

「――ウチの娘が世話になったなぁ、魔界の者よ」

「「「ッッ!!」」」


 悠々と歩いてきた男の言葉に、僕達は身構える。


「そう固くなるな。これでも一国の王なのだ。見抜けぬようでは務まるまい?」

「一国の王……?ってことはっ……!?」


 僕の言葉に、男がニカっと笑いながら頷く。


「如何にも。俺が、この国の王――シュタリウス・リル・ウル・サザンクロスだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ