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第4話―顕る想いは何を思う

 サーリャ様の館に着くと、彼女は庭で花の手入れをしていた。


「サーリャ様」


 僕は彼女を呼びながら歩み寄る。しゃがんで手入れをしていた彼女は顔を上げ、こちらを振り向くと、すこし驚いたような顔をする。


「あら、ヴァイじゃない。それに皆にカレン様まで。一体どうしたの?」

「ええっと、ですね。“聖界”から招待状が来まして……」

「“聖界”から!?またどうして……」

「僕らにも何が何だか……」


 さしものサーリャ様も困惑しているようで、その眼に驚きが見え隠れしている。


「それで、その招待には乗るのかしら?」

「ええ。ですが案内できる人が誰もいないのが難点だな、と思いまして」

「それで、何でここに?」


 サーリャ様がもっともな疑問を投げかける。ここで、僕は核心を突く。


「唯一、“聖界あちら”側にいた方が、ここにいますので。裏庭に行きましょうか」

「………?」


 そうして僕らは館の裏側に向かい、アリオスの形見、万変剣の前の前に立つ。


「……一体何をするつもりなの?」


 未だに理解できていないのか、怪訝そうな顔をしながら訊く。


「まあ、見ていてください。――想いよ届け、想奏真剣そうそうしんけんアストクラウス」


 僕は想いを紡ぐ剣を召喚し、万変剣の横に突き立てる。

 そして放つのは、極致の最高峰。


「想いは募り、願いは紡がれ、奏でし想いは形を成して、夢幻むげんから目醒め顕現せん。想奏神剣、極致奥義【燃華微笑ねんげみしょう】――」


 柄から切っ先まで桜色の長剣が、さらに淡く桜色に輝く。その光は次第に増していき、ついに隣の魔剣も光に飲み込む。


「――“ 慕想奏醒ぼそうそうせい”」


 淡い桜色の輝きが、二振りの剣から離れ、僕達の前に移動する。その光は徐々に人の形を為していき、完全に人の形をとった瞬間、光が消える。

 光が無くなって現れたのは、少し長めの黒い髪に、色白の肌の、一人の青年。

 彼が眼を開けると、その眼は翡翠のような綺麗な色をしている。生前の虚ろだった、憎しみに塗れていた頃の面影はもはやどこにもない。


「……やあ、久しぶりだね、サーリャ」

「…………お兄、ちゃん………」


 サーリャ様の眼に涙が浮かび、二筋の雫となってその頬を伝う。

 その雫はとめどなく流れ続け、地面を濡らす。そんなサーリャ様を見て、黒髪翠眼の青年―アリオスは、彼女を抱き寄せその頭を撫で続ける。


「ただいま、サーリャ」

「うっ……うぅ…………もう、っ………会えないって、思ってた………」

「よしよし。もう大丈夫だからな」


 そう言って、ただひたすらに彼女を撫で続ける。

 やがて落ち着いたのか、サーリャ様はアリオスから離れ、そのまま彼を見つめる。


「………おかえり、お兄ちゃん」

「ああ。ただいま」


 そう言って微笑み合った後、彼は僕へ向き直る。


「君が助けてくれたんだね。ありがとう、〝紫〟の弟くん」

「いえ。こちらとしても必要があったからこうしたまでです。それとその呼び方はやめて頂けると。敵対していた頃を思い出してしまうので」

「ああ、それもそうだね」


 アリオスは軽快に笑いながら言う。ひとしきり笑った後、彼は少し真剣な眼差しになって問いかける。


「で、必要があったってのはどういうことかな?」


 僕はもはや何度目とも判らない説明を彼にすると、少し考えるような素振りを見せる。その後頷きながら話す。


「なるほどね。それくらいなら問題ないよ。ただまあ、俺も色んなところ行ってた訳じゃないから、中心の方までしか解らないけど大丈夫?」

「ええ。十分ありがたいです」

「決まりだね。出発はいつだい?」

「そうですね……どうしますか、カレン様?」

「そうじゃな……。少し急じゃが、明日には行けるかの?」


 僕らは同時に頷く。


「ええ、大丈夫です」

「俺も問題ないよ。今はもう幻想体ファントムのようなものだし、用意するものもないしね」


 アリオスが言うと、カレン様は頷いて言う。


「うむ。では明日また玉座の間に来てもらおう。今日は一先ず解散だ。皆ゆるりと休むといい」

「「「はっ」」」

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