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第56話―奏でる想いは憎悪を超えて

「想いよ届け――想奏神剣そうそうしんけん、アストクラウスッ!!」


 新たに生み出した剣は、途轍もない力を秘めていた。

 柄から剣先まで仄かに桜色に染まっている。その剣身は真っ直ぐの両刃直剣で、影淵剣と比べて少し長いように感じる。

 その桜色の長剣の切っ先を奴に向け、告げる。


「では、行きますよ?」


 言うと同時に僕は地を蹴り、アリオスに切迫し、真正面から斬り下ろす。


「ッ………!?」


 奴が僕の剣を受けた瞬間、その手に握る魔剣が砕け散る。

 驚愕するアリオス。だがそれでも、奴は致命傷だけは受けまいと、片手に残った剣で反撃する。僕は身をひるがえして躱し、再度距離を詰めて、今度は横薙ぎに払う。

 アリオスはバク転で回避し、そのまま距離を詰めてくることはなかった。

 お互いを警戒し、膠着状態の中、奴が口を開く。


「どいつもこいつも……!邪魔するなよ!俺の復讐を!!これが、これだけが、俺が今まで生きてきた理由なんだ!!万変剣、変化・剛ノ型ッ!!!」


 奴は魔剣を一振りの大剣へと変化させ、地を蹴ったと思うと一瞬にして僕の前に現れ、その手に握る剛剣を振り下ろす。

 僕はそれを想いの剣にて受け、奴の心に語り叫ぶ。


「憎しみに塗れた感情を生きる糧になんかしないでください!!憎悪に染まったまま生きたってただ苦しく虚しいだけでしょう!!」

「黙れ!!お前なんかに理解されてたまるか!!過去から目を背け、何も知らずただのうのうと暮らしていただけのお前にッ!!!」

「だから今こうして向き合ってるんですッ!!何も知らなかったから!!背負うべき罪も!あなたのその憎しみも!!今知れたからこそ、己と、貴方と向き合っているんです!!!罪の力にその身を堕とし、憎しみという免罪符を片手に復讐の道に逃げているのは一体どちらなのですッ!!!」

「黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!!!!お前ごときが知ったような口を聞くなあああぁぁぁッッッ!!!!万変剣、極致・剛ノ型ッッッ!!!」


 奴の大剣がさらに巨大化する。奴は一度距離を取り、それを振りかぶって突進を仕掛ける。


「憎しみだけではどうしようもないこともあると、何故解らないのですッ!!想奏神剣そうそうしんけん、極致【喜輝きき想晴そうせい】――」


 僕の剣が桃色の光で覆われる。アリオスとは逆に、僕は桃色に輝く剣を腰溜めに構えて迎え撃つ。


「潰れろ――“轟地震天ごうちしんてん”ッッッ!!!!!」

「――“富希菊フウキギク”ッッ!!!」


 奴がその巨大な剛剣を振り下ろすと、地が轟き、空が震撼する。僕はそれに合わせて、下から奴の剣を受ける。すると、薄紅色うすべにいろのサイネリアの花弁はなびらが、アリオスの渾身の振り下ろしを優しく包み込むかのように受け止める。

 自身の極致が、いとも容易く受けとめられたことに驚愕し、鍔迫り合いの状態で刹那の間硬直するアリオス。

 ――僕はそれを、見逃さなかった。


「今です――ラグナ殿ッ!!」

「心得たッ!!三度みたび降り注ぐは、翡翠の加護……!!絶龍刀極致、焉裏えんり其の参――」


 ラグナ殿は僕の肩を使って跳び上がると、刃のついていない反りをアリオスに向ける。そして――


「――“画龍点睛がりょうてんせい花緑青はなろくしょう”ッ!!」


 その首を、刀の反りにて、優しく斬った。


「「「なっ………!?!?」」」


 その瞬間、僕は目を見開いた。

 いや、僕だけでなく、姉さんやカレン様達も、皆一様に驚愕で眼を見開いている。

 ジャック殿の身体が翡翠の光に包まれると、アリオスの魂と、ジャック殿の魂とが分かたれる。

 やがて翡翠の光が収まると、そこには二人の人物が倒れていた。

 一人は、見覚えのある、以前の姿となったアリオス。そしてもう一人は――


「――ジャック、殿………」


 先刻まで剣を交えていたその身体には、元通り、ジャック殿の魂一つのみとなっていた。


「………っ……ぅ………」

「………ジャック殿!」

「やっほー……、みんな。ごめんね、迷惑かけちゃって……」


 目を覚ましたジャック殿は開口一番、そんなことを言った。


「迷惑など、とんでもない!!むしろ、僕たちが関係のない皆さんを巻き込んでしまって申し訳ありません……。一度は皆さんを――」

「おっとヴァイ殿、その先は言わなくていいぞ?」


 そう言ってラグナ殿が遮る。


「ええ。私たちがやりたくてやっていることなのですから。ヴァイ殿に責任などございませんよ」

「全くだね。それに、カレン様の御力でこうして生き返れたのだから、よしとしようじゃないか」


 ディーレ殿とヴァン殿が、笑いながら便乗する。


「全くじゃぞ。まさかこんな大事になるとは思わなんだ……」


 カレン様はそう愚痴をこぼすが、しかしその顔は笑っている。


「ありがとうございます、皆さん……」

「ありがとう、みんな……」


 僕と姉さんは顔を見合わせ、お互いに笑い合い、同時に礼を述べる。


「――さて、まだ後片付けが残っているぞ」

「……ええ。後は、お任せを」


 僕は皆にそう言って、アリオスの元へ向かう。

 見ると、丁度起き上がったところだった。


「ふざけるな……!!何で、お前なんかに!!!」


 起き上がると同時に、奴はその手に自身の魔剣を握り、僕に向かって突進してくる。


「貴方が言っていたでしょう。〝憤怒〟とは、欠陥だと。想奏神剣、極致【慈雨じう想天そうてん】――」


 僕の剣が、今度は山吹色に輝く。僕はその剣を、握っている手とは逆の腰に構え、左脚を引く。


「死ねえええぇぇぇッッッ!!!」


 僕は奴の突進突きに合わせ、神剣を腰から閃かせる。


「――“蠟梅一閃ろうばいいっせん”」

「かっ………」


 抜刀術、『居合』。

 アリオスは僕のすぐ横を通り過ぎ、赤氷しゃくひょうの地面に倒れこむ。だが、斬ったその個所に傷は見られない。

 次の瞬間、奴の身体が灰のように消えていき、その場に赤黒く光る何かが残った。それこそが、アリオスの魂だ。


「――〚精神拘束スピリチュアルバインド〛」


 僕は逃げられないように【紫魔法】にて拘束し、サーリャ様に目を移す。


「さて、最後の仕上げです」


 そう言って僕は、彼女を真剣な眼差しで見つめる。


「頼みました、サーリャ様」


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