第55話―憎しみの輪廻
「……………思い出したか?憎き俺の、妹さん?」
「………っ」
奴に妹と呼ばれた彼女は何も言わない。否、言えないのだろう。今まで居なかったと、その兄の存在を忘れ去ってしまっていたのだから。
突如、サーリャ様の前に瞬間移動するアリオス。そして困惑しているサーリャ様に躊躇することなく、その双剣を振るう。
「ッ!!」
僕は地面に落ちていた剣を拾い、間一髪でその間に割り込んで、奴の剣撃を交差させて受ける。
奴の眼を見ると、その真紅に染まった眼の瞳孔は開ききっており、極度の興奮状態にあることが窺える。
「落ち着きなさい!殺したところで何になるのです!!」
「どけ!!こいつが全ての元凶なんだ!!こいつのせいで!俺の人生は――」
「だからといって殺して何になるのです!!憎しみはまた憎しみを生み、やがてまた殺し合うだけだと、何故解らないのです!!」
「知ったことか!!今の今俺と殺し合いしてる奴が――何を偉そうに説教垂れてやがるッ!!」
「っ…………!?」
感情の昂りからか、奴の膂力が増す。僕はそれに耐えられず押し込まれ、体勢を崩してたたらを踏む。
そこからは、一方的だった。
二連袈裟懸け。斬り上げ。横薙ぎ。逆横。突き。縦横無尽に迫りくる連撃に、僕は防戦一方になる。
「どうした!?お前も憎いんだろ!?殺してみろよ!!さあ!!さあ!!!」
「くっ………オアァッ!!」
僕も反撃に出る。だが、相手の連撃の最中、無理な体勢からの攻撃だったからか、上手く振れない。
僕の不完全な剣撃は、やはり容易く弾かれる。
だがそのお陰で、一度サーリャ様を連れて距離を取ることに成功する。
「イズ、ルーク」
「「は」」
僕が二振りの魔剣の名前を呼ぶと、魔人となって出現する。
「しばらく頼みます」
「承知」「お任せを」
そう言って僕は、アリオスを二人に任せ、アーリャ様を連れてさらに下がる。
チラリとアーリャ様を見ると、その眼は憔悴しきっており、もはやまともに戦うこともできなさそうだ。
「………少し、休んでいて下さい。僕が、ケリをつけますから」
「………ええ。ごめんなさい、役に立てなくて………」
「いいえ。恐らく、最後に貴女が必要となるでしょう。ですから、どうかそれまでは」
僕はサーリャ様を落ち着かせた後、改めてアリオスに向き直る。
「イズ、ルーク、下がってください!」
僕がそう言うと、二人は何も言うことなくアリオスの剣を弾いて下がる。入れ替わるように僕は前に出て、アリオスと相対する。剣も何も持っていない僕を見て、奴は嘲るように笑う。
「はははっ、今更丸腰で俺に勝てると思ってるのか?だとしたら頭お花畑もいいところだよ?」
「剣なら、ありますよ」
言いながら、僕は右手を前に突き出し、何もない虚空を握る。
「ッ!?なんだ、この光は――ッ!?」
すると、そこから眩いほどの白光が煌めく。
そして僕は、この戦いで進化した、自身のスキルの権能を行使する。
「紡ぎ響かせ、想いを奏でよう。重なる想いは天まで届き、万物を照らす光となりて、全てを救う刃となる。想いよ届け――想奏神剣、アストクラウスッ!!」
――さあ、最終決戦だ。