第50話―重なる想いの刃
「――さて、俺らはこのクソデカトカゲを相手にするわけだが……」
「……にしてもでかいわね……」
そう言って見上げるレグルスとクリスタ。その目線の先には、青紫色の鱗を持つ飛龍が浮かんでいた。
「グオオオォォォォアアアアッッッ!!!!」
飛龍が咆哮すると、荒れ狂う水柱が二人に襲い掛かる。
「「〚幻想創造〛ッ!」」
二人は紫魔法にて受け継がれし愛剣を創り出す。
そして、目の前に迫りくる水柱に対抗すべく構える。
「影淵剣、極致其の弐――」「陽天剣、極致其の肆――」
レグルスの剣が漆黒の炎に包まれ、クリスタの剣に紅炎が燃え盛る。
眼前の激流に、それぞれの得物を振るう。
「――“獄淵”ッ!!」「――“炎華轟天”ッ!!」
二つの炎が交錯し、激流を灼き斬る―ことができなかった。
確かに斬ったはずのその水柱は、しかし何事もなく二人を呑み込む。
「くあっ………!?」
「きゃあっ………!?」
水流の中では、幾つもの水の刃が生成され、二人の身体に次々と傷を作っていく。
その水刃の嵐から逃れるべく、レグルスが魔法を行使する。
「――ッ!!」
二人はヴァイのスキル、『夢幻想神』によって現世に存在している。その為、多少ではあるが相互的に能力を使うことができる。レグルスはヴァイの技術、[多重無詠唱]にて無数の獄陽を生み出す。
その地獄の炎球は、少しずつ、だが確かに自分たちを飲み込んでいる水柱を蒸発させていく。
ついに最後の水が消える瞬間、やはりというべきか、水蒸気爆発を起こす。
「クリスタッ!!」
吹き飛ばされる瞬間、レグルスはクリスタを抱き寄せ、爆発の衝撃から守る。
「大丈夫か?」
「ええ……、助かったわ」
そうしてレグルスは彼女を地面に下ろすと、再び空に浮く巨大な龍を見やる。
「こいつ……恐らくだが〝嫉妬の悪魔〟だな?奴の司る権能が“確定結果”なんだろうさ。それなら斬れなかったのにも合点が行く」
それを聞いて、クリスタが納得した顔で頷く。
「なるほど。じゃあ……どうするの?」
「正攻法じゃ多分アイツは倒せないだろうな。ならアイツが嫉妬しても絶対に使えない、誰にも奪えないもの。それで行くしかない」
レグルスがそう言うと、クリスタの険しい顔に笑顔が浮かぶ。
「……懐かしい技を使おうとするのね。結構好きよ、“アレ”。一番貴方を感じられるんだもの」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。じゃ、行くぞ?」
「ええ」
「〚幻想創造〛ッ!!」
レグルスの背中に幻想の二対四枚の翼が生える。それを羽ばたかせ、レグルスは宙を駆ける。
「オラッ、こっちだデカブツ!!“獄淵・飛燕一刀”ッ!!」
威勢のいい声と共に、漆黒の炎の斬撃を飛ばす。
「グオオオォォォォッッ!!」
身体が尋常でなく大きいため、その斬撃は奴の胴体の半ばに傷をつける。だが、ダメージとしては小さいようだ。だが、奴が僅かに怯んだその隙を、二人は見逃さない。
「クリスタ!!」
「ええ!」
二人は互いに鏡になるように構える。そして、距離がありながらも、二人の魔力を、想いを一瞬にして重ね合わせる。
「愛してるぞ、クリスタッ!」
「私も愛してるわ、レグルス!」
二人のその想いは、まるで炎のように燃え上がり、敵を包み込むように滅する、唯一無二の刃となる。
「「天上天下――“相愛優刃双想斬”ッッッ!!!」」
二人の振るった剣は、相手を包み込むような光と共に白牡丹の花弁をどこからともなく生み出す。
その優しい光は、嫉妬に狂った飛龍を包み込み――
キラキラと粒子となって消えていく光とともに、静かに消滅したのだった。
クリスタの隣に降り立ったレグルスは、無言でそっとクリスタの腰に手を回す。
そのまま、未だ舞い落ちる白牡丹の花弁と、漂い続ける粒子を眺め続ける。
「……やっぱり、綺麗ね」
「そうだな。いつ見ても、綺麗だ。……さて――」
しばらく眺めると、残る最大の敵に二人は同時に目を向ける。
「――もうひと頑張り、だな」
「ええ。決着の時、ね」
そう言って、自分たちの息子が対峙する敵を見やり、しばらくは彼の為にも、二人で見守り続ける。