第49話―救済
「――〚聖ナル爆炎〛ッ!」
ルオは目の前の少女、〝傲慢の悪魔〟と対峙すると同時に金色の爆炎を放つ。
「…………」
少女は相変わらず口を開くことはない。その灰色と黄金の異色虹彩でルオを見つめながら、手を前にかざす。すると、ルオの放った金色の炎が掻き消える。
ルオはそのまま止まらず、彼女の懐に潜り込み、その華奢な腹に掌底を当てて――
「〚天衝〛ッ!!」
瞬間、その小さな身体が吹き飛ばされる。宙を舞った後、鞠のようにバウンドしながら転がる。
そこからも容赦なく攻めるルオ。
「〚聖炎剣〛!」
魔法を行使したルオの手の中に、剣の形を模った煌々と燃え盛る金色の炎が召喚される。
未だ倒れている眼前の悪魔に向かって、その得物を振り下ろす。
「セアッ!!」
「………!」
それを転がって避ける少女。距離を取ろうとする少女に対し、させまいとルオも距離を詰めようとする。
だが、彼女はその背中に生えている、漆黒と純白の一対二枚の翼を広げ、空中に浮かぶ。
そして、遂に彼女が動き出す。彼女はその小さな手をルオに向けて――
「――穿て」
その一言で、滞空する彼女の周りを囲うように魔力によって作られたような、無数の光の刃が出現する。
ルオに向けていた手を彼女が振り払うと、その刃の一切がルオに向かって飛来していく。
「ッ……!」
彼はその手に握った炎剣を巧みに操り、自らを穿たんとする光の刃を斬り払っていく。
だが、ルオの専門はあくまで魔法だ。近衛騎士団に入れるほどの実力は持っていても、やはりラグナやディーレ、レイティア達に敵うほどではない。
自らへと飛来するその光の刃を落としていくが、やはりというべきか、その内の数本が彼の剣をすり抜け、頬を、腕を、腹を掠めていく。
さすがにキリがないと思ったのか、ルオは新たな魔法を行使する。
「くっ……、〚翔舞〛!」
彼の背にも純白の一対の翼が生え、彼も空を舞う。すると、先程の彼女の放った刃の残りが彼の後を追ってくる。それを魔法で落としていく。
「〚劫炎獄熱波〛ッ!!」
その地獄の炎は、しかし三割ほどを滅ぼして消える。その様子を見て舌打ちをするルオ。
「流石に多すぎますね………。一か八かですが、“アレ”を使いますか……!」
彼は空中を飛び回り、時にはその右手に握る金炎の剣で叩き折ったり、別の魔法にて消滅させていきながら、悪魔の少女に気づかれないように魔法陣を構築していく。
ついにその魔法陣が完成し、高らかにその魔法を叫ぶ。
「〚封魔四聖縛鎖〛ッッ!!」
次の瞬間、描いた立体魔法陣の四方から白銀の鎖が伸び、悪魔の少女を雁字搦めにする。
「…………動けない」
その鎖は彼女の絶対防壁を貫通しているようで、一切の身動きを許さない。
だが、それでも彼は気を抜かず、だが詠うように新たな魔法を詠唱する。
「巡れ魂よ。其は罪に墜ちし御魂の子。魂は廻りて、聖なる福音を以て解き放たれる。解き放たれし魂は輪廻し、天の祝福を以て何れ返り咲かん。彼の子に救済を。彼の罪に堕ちし御魂に祝福を。神に代わり、我が福音を以てその身を浄めん。彼の身に、彼の御魂に、神の祝福があらんことを――」
詠唱していくにつれ、少女をさらに囲うように、立方体の魔法陣が構築されていく。
幾重にも重なったその魔法陣が、ついに完成する。
「――解き放ち給え!〚滅魔聖位浄霊波〛ッッ!!」
発動したその魔法は、立方体の魔法陣の中を金色の光で満たし、世界が震撼するような爆発音が響き渡る。その魔法陣が消えた後には、天より堕ちし悪魔の少女、ルシファーはいなかった。
ルオは目を瞑り、その少女を想う。
――どうか、彼女が救われますように。