第44話―『幻身顕現』
意識が戻ると、カレン様の首が切られるところだった。
私は瞬時に、幻想の手を生み出す。
「……何で、お前が……生きてるんだ………!ヴァイ………!」
その声を聞きながら、僕と姉さんはゆっくりと起き上がる。
「お久しぶり、ですね。アリオス」
「あの時はよくもやってくれたな。倍返しの時間だ、覚悟はいいか?」
僕達はアリオスを見据える。
「ヴァイ……!レイティア………!」
「お待たせして申し訳ございません、カレン様」
僕はカレン様に背を向けたままそう告げると、泣いたような、笑ったような声で言い放つ。
「……全くじゃぞ。皆揃って死におって……。……クリスタとレグルスには会えたか?」
「ええ、今も、僕たちの中に」
そう呟き、僕と姉さんは同時に胸に手を当てる。
「ああ。まさか、こんなに近くにいるとはね。気づかなかったよ」
そう言って、僕と姉さんは顔を見合わせて頷く。
「さて、こっからは母さんと父さんの分の借り、返させてもらうぞ?」
「……ああ、そっか。そう言えば、君達の両親は僕が殺したんだったね。すっかり忘れていたよ」
「相変わらず、人をイラつかせるのは得意ですよね、貴方」
「あははっ、それほどでもあるかな?」
軽口を叩き、互いに様子を見る。
ここで、奴が動き出す。
「……でも、また振り出しかあ。面倒くさいなあ。――〚怠惰〛」
そして、刹那の内に近づき、僕達を葬らんとその漆黒を纏った腕を突き出す。
それに対して僕はバックステップで避ける。が、どんな性質持っているのか解らないが、距離という概念を飛ばしたように土手っ腹に突き刺さる。
「かっ…………」
だが、僕はここで下がらずに、改めて距離を詰める。
そして、ほぼ零距離で魔法をぶっ放す。
「〚劫炎獄熱波〛ッッ!」
「クッ……」
アリオスは恐ろしい速度で避ける。先の魔法は奴の頬を掠めて後ろに着弾する。
激しい爆発。それに乗じて、私の背後、即ち奴の死角から、いつの間にか召喚したルークと一緒に、純白の魔剣を持って突進する。
「「陽天剣、極致其の弐、“緋桜”ッ!!」」
緋い桜の花弁が宙を舞う。鮮やかに、そして軽やかに舞うそれら一つ一つが、極度の熱を秘めた、鋭利な刃になっている。
「セアッ!!」「フッ……!」
気合とともに2人が魔剣を振るうと、幾千、幾億にもなるであろう桜の花がアリオスを襲う。
「自分達が優位に立っているとでも思っているのかい?〚傲慢〛」
傲慢な力にて、花達の猛攻をいなす。
「その力、面白いね。欲しいなあ。――狂わせろ、〚嫉妬〛」
「ッ!?くっ……、かっ………」
「………何だ、これは……?」
奴がその魔術を使った瞬間、姉さんとルークに幾筋もの切り傷が刻まれ、熱傷ができる。その中には、いくつか深いものもあった。
「姉さん!ルーク!」
「自分達の技を食らった気分はどうだい、お二人さん?」
奴はくつくつと喉を鳴らして笑いながら、その虚ろで狂気すら覚える赤眼で僕達を見やる。
「〚嫉妬〛は、因果逆転。僕がしたいこと、欲しいと思ったこと、何でも結果として顕在することができる」
「………そんな、ことが」
「できるんだよ。現に今、そうなっているじゃないか。それに……君も手負いなの、忘れてないよね?」
「くっ………」
そう。何とか姉さんの元まで来たが、私も腹を貫かれている。もう、動く力もあまり残っていない。
奴は万変剣を右手にぶら下げて、こちらへ歩いてくる。
「さて、じゃあ。もう、いいよね?もう一度殺してあげるよ。安心して、一撃じゃ終わらせないから、ね?」
そうして、奴は魔剣を振るう。
避けられない、せめて姉さんだけでも――そう思っていると。
ふと、口が勝手に動く。
「『夢幻想神』、〚幻身顕現〛ッ!」
そうして、目の前に現れたのは。
「中々に苦戦してるみたいだな、ヴァイ、レイティア?」
「助けに来たわよ、2人とも」
「父さん……!母さん……!」