第43話―目覚めの刻
「う……うああああああああぁぁぁあああ!!!」
私のせいだ。私が二人を殺したのだ。
私は無意識に持っていた剣を、自らの腹に突き立てる。何度も、何度も。
血が噴き出る。吐血する。だが、死ぬ気配はない。痛みもない。何度も突き立てているのに、その手は止まることを知らない。
私は手に持っていた剣を短く持つ。手からも血が出るが、お構いなしにその剣で自分の胸を抉り、ドクン、ドクンと脈打っている赤い物体を強引に取り出す。
私はそれを、一思いに握りつぶす――寸前に、姉上が私の手を止める。
「やめろ、ヴァイ」
「…………なぜ、止めるんだい、姉さん」
姉上は真剣な眼差しのまま、何も言わない。
「もう……いいだろ……」
「…………」
「……………全て、僕の、せいなんだ」
「……違う」
「違わない!!」
姉上が否定するが、私はそれを否定し、続ける。
「何も違わない!違うもんか!!僕のせいで!母さんが、父さんが死んだ!僕が!母さんを、父さんを殺したんだ!今回だってそうだ!僕が弱かったから、姉さんを助けられなかった!僕の弱さが、姉さんを殺した!!僕が――」
「違うッッ!!!」
姉上のその怒鳴り声で、私はハッとする。
姉上を見ると、涙を流し、口の中から血が垂れるほど歯を食いしばっていた。
「違うんだよ、ヴァイ…………。お前は……何も、悪くないんだよ……。……頼むから、これ以上、自分を責めないでくれ………。もう、嫌なんだよ………家族を………大切な人を、失うのは………」
「……………ッ」
それは……私だってそうだ。もうこれ以上、大切な人を失いたくない。だから、もう、諦めるのだ。何もかも。全て。
「………ごめん、姉さん。僕は、もう、歩けない。前に、進めない。もう…………何も、見たくないんだ………」
そして、自分の手に持つ心臓を、今度こそ握りつぶす――
「――諦めるにはまだ早いんじゃないのか?我が息子よぉ?」
その、声は。
泣きたくなるほどに懐かしい、その低い声は。
私はその声がする方を振り向く。
私の視線の先には、あの記憶の頃と変わらない、父がいた。その隣には、母も。
「お父、さん………。お母さん、まで……」
「父さん!母さん!」
姉上は二人の元へ走り寄ろうとした。
だが、父がそれを止める。
「ダメだ。お前達はまだこっちに来ちゃいけない」
「まだ、やらなければいけないことが残っているでしょう?」
そうして母が横を流し見ると、そこに映像が映し出される。
そこに映っていたのは――
「――陛下!?それに、あの姿は……!?」
アリオスの禍々しい黒手に腹を貫かれ、倒れているカレン様。壁に打ち付けられ、血を吐いて気を失っているルオ。
「助けに行ってあげて。彼女たちには、まだ貴方達が必要なの」
「お前らがこっちに来るのは、もっと後でもいいさ。それまで気長に、〝クリスタ〟と待ってるからよ」
夢では聞こえなかった、母の名前を父が呼ぶ。
過去に見たことない、父と母の真剣な眼差し。
「でも、僕達は死んで……」
そう。私達は、奴の、アリオスの攻撃によって殺された。故に、助けに行ってと言われても、どうすればいいのか何もわからない。
「それは大丈夫。私達がついてるから、ね?」
そう言って2人は私達に近づき、私達を抱き寄せる。
「大丈夫だ。俺達は、離れていても家族だから。身体なんて、魂なんて、ただの器に過ぎない。俺達が一緒に過ごした日々は、ずっと、お前らの中で、俺たちの中で生き続ける」
母上が続ける。
「早くに2人だけにしちゃってごめんね。けど、あの時、貴方達のこと、守れてよかった。これからは、貴方達の中で、守り続けるから。それが、私たちの役目だから」
そして、母上達が消える。
だが、寂しさは無い。何故なら。
――さあ行け!お前らの大切な友を傷つける者に、鉄拳制裁だ!
――私達がついてるから、大丈夫よ。さあ、行きましょう!
心の中から聞こえてくる懐かしい両親の声で、私達は夢幻の牢獄から覚める。