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第41話―在りし日のfantasia

ぼくは部屋から出て、家族の待つリビングに行く。既に扉の前からご飯の良い匂いが漂い、お腹が鳴る。


「おはようヴァイ、よく寝れたか?」

「ほら、もうご飯出来てるわよ、早く座りなさい?」


いつもみたいに満面の笑みを浮かべる父。

どんなときも微笑を湛える母。

ニカッと屈託のない笑みを浮かべ、朝ごはんに目を輝かせている姉。

ぼくは3人の姿を見て、何故か涙が出てきた。


「………おいどうしたヴァイ、どっか痛いのか!?」

「怖い夢でも見たの?」


心配そうな声を上げる2人に、さらに涙が溢れる。


「あれ………。何でだろう、止まんないや」


ぼくは視界を歪ませる液体の正体が分からないまま、ただただ泣き続ける。

ふと、頭に何かが置かれた感覚がした。

前を見ると、お母さんが優しく撫でてくれている。


「よしよし、大丈夫よ。怖かったね。もう大丈夫だからね」


お母さんはそうやってぼくを抱き締めてくれた。それにぼくはまた涙が止まらなくなり、声を上げて泣いた。


しばらく経って、ぼくは落ち着き、涙も止まった。


「ごめんね皆、もう大丈夫だよ」


3人は一斉に安堵の表情を浮かべる。


「さあ、じゃあ食べちゃいましょ?」

「ああ、そうだな!オレはもうハラペコだよ!」

「父に同じく!」

「じゃあ、せーので言うわよ?せーの――」

「「「いただきまーす!」」」


声を揃えて挨拶をすると、お姉ちゃんとお父さんは競い合うように、ぼくとお母さんはゆっくり食べ始める。

そして、お姉ちゃんが食べ物を喉に詰まらせ、脚をばたつかせる。


「んぐっ!?んー!んー!」

「もー!お姉ちゃんまたー!?」


そう言いながらぼくが水を渡すと、ゴクゴクと喉を鳴らして飲む。


「…………ぷはっ!し、死ぬかと思ったー……」

「いつもそうなるんだから、いい加減学びなよ、お姉ちゃん」


ぼくがそう言うと、お姉ちゃんはバツの悪い顔をし、お父さんは爆笑する。


「フハハハハッ、ヴァイの言う通りだぞ!もうちょいゆっくり食ったらどうだ、レイティア?」

「その言葉そっくり返すわよ、お父さん?」


お母さんのその言葉に、ギクッと分かりやすく動揺するお父さん。


「す、すまんかったよ……〝――〟」


ぼくは、なぜかそこだけ聞き取れなかった。

恐らく、お母さんを名前で呼んだのだろうが……。

ぼくはそれに関してはあまり気にせず、そのままご飯を食べ続けた。

食後、ぼくはお姉ちゃんに誘われ、近くの森に来ていた。


「よーしっ、今日も魔法の鍛錬をするぞー!」

「魔力の練成もしなきゃだよ、お姉ちゃん」

「えー……。アレ地味過ぎて嫌いなんだよ……」


そう言って苦虫を噛み潰したような顔をするお姉ちゃん。


「つべこべ言わないで!やるよ!」

「へーい……」


ぼくが少し強引に誘うと、さすがに折れたのか了承してくれた。

それから、2人で隣に座り、お互いに集中し、魔力を高める。

隣でお姉ちゃんが、何かブツブツ言っているが、気にしない気にしない……。


「あー!集中できん!」

「ぼくはお姉ちゃんの声で集中できないよー!」

「うっ……すまん」


急にしおらしくなるお姉ちゃんに、ぼくは少し困惑する。


「全く……ほら、それじゃあ魔法の鍛錬するよ!」


ぼくがそう言うと、お姉ちゃんは顔をパアッと明るくさせる。


「ああ!やるぞ!」


そして2人で、あーでもないこーでもないと、魔法理論について語ったり、魔法陣の構成を弄ったりする。

そんなことをしていると、あっという間に夕方になっていた。


「……よし!そろそろご飯の時間だな、帰るぞヴァイ!」


ぼくはそのお姉ちゃんの言葉に異を唱える。


「えー……もうちょっと……」

「ほら、ワガママ言ってるとまたお母さんに怒られるぞ!」

「うっ……はぁい」


ぼくは渋々ながら手を繋いでお姉ちゃんと帰路につく。

家に帰って、扉を開けると。


「「「ヴァイ、誕生日おめでとー!」」」


お母さんとお父さん、そして隣にいたお姉ちゃんまでもが、ぼくを祝福してくれる。


「ほら、今日はいつもより豪華なものいっぱい作っちゃった♪いっぱい食べて!」

「わあ………!美味しそう!」

「ヴァイ、お前にこれをやろう」


そう言ってお父さんに渡された箱に入っていた物に、ぼくは2度目の嘆声を上げる。


「わあ………!!かっこいい!」

「我が〝紫の一族〟の証のマントだ。どれ、着けてやろう」

「うん!」


そうして早速お父さんに着けてもらうと、ぼくはそのマントを翻す。

それを見て、ぼくは感動する。


「よく似合ってるぞ、ヴァイ!」

「ええ、さすが私達の子ね」

「最っ高にカッコいいぞ!」


3人は口々に感想を述べる。ぼくはそれを聞いて、嬉しくて堪らなかった。


「ありがとう……!皆……!大事にする!!」


――その、瞬間。

3人は笑顔のまま止まってしまう。

ぼくはそれに困惑し、何故か焦燥を覚える。


「お母さん?お父さん?お姉ちゃん?」


3人を呼んでも返事は無い。

そして、目の前が、いや、ぼくの周りが、ガラスのようにヒビが入る。

そのヒビは止まることを知らず、どんどん広がっていき。


バリイイイィィン!と大きな音を立てて崩れ去る。

その先には、ただ闇が広がるだけだった。


「お母さん!お父さん!お姉ちゃん!!」


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