第40話―夢幻に眠る者
「系統外魔法:【聖】には、発現した人それぞれで違う力が宿ります。僕の魔法の力、それは、〈魔術消失〉。あなたが今しがた使った〚傲慢〛、〚嫉妬〛、〚怠惰〛の力は、もう使えない」
それを聞いて、アリオスから呆然とした声が漏れる。
「……は?」
その一瞬の気の抜けが、命取りとなる。
「戦闘中に呆けるとは、余裕ですね!〚聖ナル爆炎〛ッ!」
しかしルオの放った金色の炎は、アリオスに当たることは無かった。
「――どこを見ておる?」
「クッ……!万変剣、極致・太刀ノ型――」
「聖魔反転・【魔極】――」
白光を帯びた長剣は反りを帯びた刀に変化し、純白だった聖剣は、ジャギィン!と音を立てて漆黒の魔剣に変わる。
「――“絶明”」
「――“秘剣・燕返し”ッ!」
今度はカレンの剣は当たらず、アリオスのカウンターにより、彼女の両腕が切断される。
だがその瞬間、カレンの前にルオが割って入る。その掌をアリオスの腹に翳し――
「〚天衝〛ッ!」
「かはッ………」
アリオスは零距離で放たれた衝撃に呻き、血を吐きながら、後ろに飛ばされる。
「まだ終わらぬぞ?」
追撃とばかりに、両腕を失ったはずのカレンが、【虚無】で作った手刀を突き出す。
彼はそれを間一髪で避けながら叫ぶ。
「くっ……!舐めるな!これだけは使いたくなかったけど……仕方ない!原罪の悪魔よ!この俺に力を!全てを我が物にできる、圧倒的な力を寄越せ!『融合魔術』――〚嫉妬〛、〚憤怒〛ッ!」
「何……っ!?」
その瞬間、アリオスの周りで魔力爆発が起こり、2人は吹き飛ばされる。
爆煙が収まると、そこには、右眼の辺りと両腕に、炎のような禍々しい紋様が浮かび上がっているアリオスがいた。右眼は真紅に輝き、見る者を皆恐怖させるような妖しい輝きを放っている。
彼はニヤリと嗤い、ルオに向けて手を翳した、その直後。
「がっ……!?」
ルオは一瞬にして壁まで飛ばされ、口から血を吐き出す。
「アリオス……貴様ァッ!」
瞬時に両腕を治したカレンが距離を詰めようとするが。
「――動くな」
その禍々しい右眼に睨まれたその瞬間、彼女の身体が動かなくなった。
アリオスは悠々とカレンの前まで歩み寄ると、小さく呟く。
「それ、もらおっか。〚虚佩〛」
「ッ!?」
身体も動かず、声も出ないカレンは、自分の魔法を簡単に奪われ、驚愕に目を見開いている。
アリオスは、彼女の土手っ腹に漆黒の手刀を突き刺す。
「かっ……けほっ………」
力なく倒れるカレン。
それを見て。勝利を確信するアリオス。
「あはははっ……、はははっ、ははははは!やっぱり、僕には敵わなかったね。じゃあ……さようなら。魔王様」
そうして、不気味な笑みをその顔に貼り付けたまま、漆黒の手刀で首を切る――その瞬間。
「……?」
「何だ、これは……?」
そこに見えたのは、金色に輝く、幻想の右手だ。
「………その、手は」
アリオスは驚愕に肩を震わせ、絞り出すような声で呟く。
「……何で……死んだ、はずじゃ…………」
〝彼〟はまだ起き上がっていない。だが、ざり――と、確かに自分の手で踏ん張る音が響く。
そして、ゆっくりと、それでも着実に、両手で踏ん張り、起き上がろうとしている。
〝彼〟の姿を、しっかりと認識し、その名前がアリオスの喉から漏れ出る。
「……何で、お前が……生きてるんだ………!ヴァイ………!」
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――夢を見ていた、気がした。
ずっとずっと、長い夢。
大事な気がするのに、思い出せそうで思い出せない。ずっと、記憶に靄がかかっている、そんな感じがする。
何だろうか。私は、どんな夢を見ていた?
懐かしい声が、私を呼ぶ気がする。
「……ィ。……ィ。……ィ!ヴァイ!」
「……ん?」
そこで、私の――ぼくの意識は覚醒する。
「やっと起きたか。ほら、母さんが朝飯作ってくれてるぞ!早く来い!」
そう言ってお姉ちゃんが、ぼくを急かす。
――ほら、やっぱり。
「――やっぱり、夢か」