第39話―魔王VS〝魔女狩り〟
「征服せよ、君臨せよ。天地二つの界綴を繋ぎ、妾とその名を知らしめよ!双極剣、グランヴィジア!!」
召喚された得物は、途轍もない力を秘めていた。その刀身は縦半分が漆黒、半分は純白に染まっており、柄は純白と漆黒が交互に螺旋を描いている。
それを見たアリオスは目を見開いて、驚きが隠せないようだ。
「な、んで……、魔王が………聖剣を……!?」
その問いに、カレンは淡々と答える
「双極剣。すなわち、聖剣にも魔剣にもなり得る。もちろん、どちらの力も使えるぞ」
「……めんどくさいもの使ってるなぁ…。じゃ、こっちも。姿を変えよ、万変剣、変化・聖ノ型」
アリオスがそう唱えると、彼の魔剣が純白の輝きを帯びる。
「万変剣か……。レイティア達から聞いてはいたが、厄介な魔剣よ」
「そこに這いつくばってる彼にも言われたね、それ」
そう言って彼はヴァンを見やり、苦笑する。
「さて、世間話もほどほどにして。第二回戦、開幕だ」
言いながら彼は一瞬にしてその間合いを詰め、純白に輝く魔剣を振り下ろす。
対するカレンは、その刀身に先程の漆黒を巻きつけ。
「――“聖魔反転”、【聖極】――」
瞬間、カレンの黒白の聖魔剣が純白一色に染まり。
「――“断空・虚喰ミ”」
「ッ!?」
そう一言発し、アリオスの斬り下ろしを受けると、その切っ先から、刀身の半ばまでが消えていた。
「マジでどうなってんだよ、その魔法は……ッ」
さらに返す剣での追撃を狙うカレンから毒づきながら距離を取り、体勢を立て直す。
「……ほんっと、やってくれるよ。とりあえず、こいつをどうにかしないとね。返してもらおうか。――〚強欲《グリ―ディア》〛!」
アリオスの魔術により、彼の魔剣が復元される。
「ほう。それが〝大罪使い〟の力か。中々どうして面白い」
「お褒めにあずかり光栄です、魔王さ、まッ!」
そこから、彼の猛攻が始まる。斬り下ろし。袈裟懸け。横薙ぎ。逆袈裟。次々と襲いかかるアリオスの連撃を、カレンは難なく弾く。
「万変剣、極致其の壱――“殲遍万華”」
「ほう?」
彼が振るう刃の軌跡に、色鮮やかな花が咲き乱れる。美しいその花は、万物の悉くを滅ぼす狂気の花だ。
カレンの王族の装束の裾がその花に触れると、触れた先にあった右手もろとも吹き飛ばした。
今度はカレンが距離を取り、自身の権能にて右腕を再生させる。
「どうだい?僕の生み出す綺麗な花たちは」
「見るだけならば綺麗なんじゃがな。まあこれぐらいならばどうとでもなる」
「余裕だね。でも……、その余裕、傲慢過ぎないかい?――搔き消せ、〚傲慢〛」
「ふむ……。それもまた厄介な魔術よ」
アリオスの魔法で、カレンの剣が纏っていた漆黒が消える。さらに、カレンの魔力も吸い取られている。
「面白いだろう?相手の大罪の大きさでその能力が左右される。使い勝手は悪いけど、面白いよ」
三割ほど吸い取られた頃だろうか。どこからともなく金色の炎がアリオスをめがけて飛来してくる。
「これは…?使えそうだし、欲しいな。奪い取れ、〚強欲〛」
そう唱えるも、その魔法は消えない。そして遂に、アリオスに着弾し、爆発した。
「何で、奪えなかった……?」
煙の中から出てきた彼は無傷だったが、魔法を奪えなかったことに困惑しているようだった。
「――それが、僕の魔法に秘められていた力だからですよ」
そう言ってカレンの後ろについたのは。
「遅くなってしまい申し訳ありません。カレン陛下」
「気にするな。良い魔法じゃったぞ、ルオ・ライオット」
新たな敵の登場に、アリオスに苛立ちが募る。
「……君の魔法、もしかして」
「ええ。あなたの予想のとおり、系統外魔法:【聖】です」
「……まさか、天敵がいたとはね。面倒くさいなぁ。戦うのを放棄したくなるよ。――〚怠惰〛」
アリオスはそう唱えるも、何も起こらない。
その事実に、彼はさらに困惑する。
「転移、できない?」
「無駄ですよ。あなたのその力、先程の爆発から身を守るために使っていましたね?」
「それが、どうしたんだい?」
「系統外魔法【聖】には、発現した人それぞれで違う力が宿ります。僕の魔法の力、それは、〈魔術消失〉。あなたが今しがた使った〚傲慢〛、〚強欲〛、〚怠惰〛の力は、もう使えない」