第37話―燃え上がる憤怒、湧き上がる激情
――姉上が、死んだ。
「あ……ああ……」
声にならない声が漏れる。嫌だ。認めない。認めたくない。
「…………ああああああああ!」
私は、自分が死の淵に立たされていることすらも忘れ、嘆いた。いや、吼えた。
ついさっきまで動く力すら残っていなかったはずなのに、私は起き上がっていた。
もう、どうなっても構わない。刺し違えてでも――
「――殺すッ!!」
私は全属性の最高等魔法を、自身の残りの魔力の限界を超えて行使する。生み出した魔法の数――数百。色鮮やかな魔法の数々が、私を囲うように漂う。私の『多重無詠唱』を以てしても、脳の血管という血管がちぎれそうになる。
それでも、私は走る。照準など関係なしに、生み出した魔法の一切を連射していく。
火事場の馬鹿力とでも言うのか、普段は感じられない、全能感のようなものが身体中を支配する。
それに、少し驚いたような表情をするアリオス。
だが奴は、私が迫っていても、構えることはない。それどころか、ニヤリと何かを企むような笑みを浮かべる。
その様子に、私の中のドス黒い怒りは更に燃え上がる。
「へえ、まだ動けたんだ。でもさ――」
奴が何か言うも、私は聞こえないフリをする。
私が握っている魔剣も、何か言っている気がする。これ以上力を使えば、死んでしまう、と。やめてくれ、と。それすらも、耳を閉ざす。
――何も聞くな。何も見るな。ただ最大の敵である、奴だけを見ろ。殺すんだ。絶対に。何が何でも。この命に代えてでも!!!
「極致其の伍・終――“淵葬閻舞・閉焉”ッッッッ!!!!!」
魔法と極致の、同時行使。誰も、姉上やディーレ殿、ラグナ殿ですら、成し得なかった技術。
だが、それでも。
「――〝憤怒〟とは、欠陥なんだよ」
その魔法は、全て当たらず、奴を掠めて後方に着弾し。
その闇は、奴には届くことは叶わず。
いつの間にか太刀へと変化していた奴の得物が、深々と私の腹を斬り裂いた。
「かっ……………はっ…………」
「君の敗因は、最期の最期で、1番頼るべきじゃなかったその〝憤怒〟という感情に頼ってしまったことだよ」
――ダメ、でしたか。
突進した勢いのまま、傷や口から血を撒き散らしながら、アリオスの横を通り過ぎて倒れる私。
今度こそ、もう、立てない。
私は、だくだくと、とめどなく流れ出る自分の鮮血を見ながら、ゆっくりと、眼を閉じた――
「――なんじゃ、騒がしい」