第35話―冰血の世界
「踊ろう、詠おう、さあ鳴らそう、世界創世の福音を。我誘うは絶対零度、血に塗れた世界の果てに、狂い、凍てつき、声ぞ失くなる。『冷血ノ王』――“血界”」
彼の足元に魔法陣が現れ、そこから赤い靄が漂い始める。
冷たい。途轍もなく。これは――
「……冷気?」
と思った時には、地面が凍り始め、この訓練場から私たちを隔離しようとしている。
そしてついに、全てが赤い氷でできた世界が創られた。
「これは……」
「私の創った世界だよ。つまり、ここでは私が創造主。だから、こんなこともできるんだよ――ね!」
そう言って彼は、手をクイッと捻ると、そこかしこから出てきた無数の赤き氷刃が、アリオスを突き刺すべく飛んでいく。
「へえ、そんなことができるんだ。面白い」
そう言いながら、奴は矢を放って全てを撃ち壊していく。
「ほう。やるね。じゃあ、これはどうかな?」
ヴァン殿が手を上に掲げると、アリオスを囲むように氷刃が出現する。
「おっと……これは面倒だね。だったら――」
奴は魔弓を前に出すと、詠唱を始める。
「――姿を変えよ、万変剣ムルティクリオス、変化・双ノ型」
奴が唱えると、魔弓だったものは二振りの魔剣に変化した。
「その魔剣、本当に厄介だね」
「そう言わないでくれよ。これでも僕の愛剣なんだぜ?」
その言葉には反応せず、ヴァン殿は上に挙げていた手を奴に向かって振りかざす。
「万変剣、極致・双ノ型――」
対するアリオスは、落ち着いた様子で奥義を繰り出す。
「――“万火繚乱”」
奴が放った剣技は、自らを軸として炎の渦を作り、自分に飛来する赤き氷刃の一切を斬り刻んだ。
「……さて、やられっぱなしも癪だし、今度は僕から行くよ?――姿を変えよ、万変剣、変化・剛ノ型」
瞬間、奴の二振りの魔剣が、一振りの大剣に変化する。
「果たして、耐えられるかな?万変剣、極致・剛ノ型【崩天】――」
――まずい!
そう思った私は、同じく極致を放つ構えを取る。
姉上やラグナ殿達も悟ったのだろう。既に各々で技を放とうとしている。
「影淵剣、極致其の伍――」
「陽天剣、極致其の肆――」
「二度響くは、紅き雷鳴…!絶龍刀極致、焉裏其の弐――」
「『冥界ノ女神』、〚極限強化〛……!」
「この世の万物を織り成す冰血よ!我が身、我が血を糧として、何物をも凍て刺す力を我に……!『冷血ノ王』――」
「朱雀刀、極致其の陸――」
そして、遂にその時が訪れる。
「――“神々ノ黄昏”ッッ!!」
それは、終わりの始まりだった。