第32話―奪われた身体、残る魂
――某日。“魔界”ロゼルナ王国、某所。
人気のない森の中を、ジャックは鼻歌を歌いながら歩いていた。
「ふんふふーん、ふーんふふふーん♪……あれれ?ねえねえ、大丈夫ー?」
彼が眼にしたのは、息も絶え絶えといった様子の“魂”――アリオスだった。
『……君、僕が見えるのかい?』
「ん?うん!ちゃんと見えてるよー!」
『本当かい?じゃあ、ちょっとこっちへ来てくれないかい?助けてほしいんだ』
「はーいっ」
ジャックは言われるまま、その“魂”の前へ歩み寄る。その瞬間――
「ありがとう、助かるよ。じゃ――喰らい尽くせ、〚暴食〛」
「ッ!?これは……っ」
アリオスが魔術を使うと、外に剥き出しになっていたその魂は消え、ジャックの魂に宿る。
手を握ったり開いたりし、身体の状態を確認すると、普段のジャックならば絶対にしないであろう表情を浮かべる。
「……さて」
狂気的な笑みを浮かべ、呟く。
「――そろそろ、復讐といこうか」
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「数日前、“境界”で、グリエド陛下……先代魔王陛下の結界が張られたわ」
「「「なっ……」」」
その言葉に、姉上がメロウの肩をガッと掴む。
「グリエド陛下が、なぜ!?生きておられたのか……!?」
「それは分からないけど……、でも、あの魔力は見間違えるはずがないわ。グリエド陛下の魔力よ」
「カレン様には報告したのですか?」
「いや、まだね。私も今戻ったばかりだから……」
「では、とりあえず向かおうじゃないか。事によっては、一大事ではすまないということになりえないからね……」
「グリエド様の魔力ってホント!?」
「「「わあっ!?!?」」」
そう言って急に現れたのは、悪戯好きのジャックだ。
「ジャ、ジャック……。相変わらず神出鬼没よね、アンタ……」
そう言って苦笑するメロウ。
だが、その瞬間、私と姉上のみ、ジャックに斬りかかっていた。
ジャックはそれを、変幻自在の魔剣、万変剣ムルティクリオスにて受ける。
「「「!?!?」」」
突然の出来事に、皆目を丸くしている。
「どうしたんだレイティア!ヴァイ!なぜ仲間のジャックに刃を向ける!?」
その問いには答えず、私たちはジャックの姿をしたヤツを睨みつけたまま、その問いの答えとなる質問を投げかける。
「なぜ……ジャックに二つ目の魂が存在している……!」
その問いに、ジャックはキョトンとしたまま、に見える。
そして、姉上がついに核心をつく。
「……なぜ、ジャックの身体を貴様が使っている……!!アリオスッ……!!」