兄弟
「記憶とは、時に呪いである。」
忘れていた方が幸せなこともある。
思い出せば、元には戻れなくなることもある。
しかし、それでも人は過去を求める。
かつて何者であったのか。
なぜ、今この姿なのか。
そして、これからどこへ向かうのか——。
"本"と"靄"、異形となった兄弟の運命が再び交わるとき、
封じられた記憶が目を覚まし、新たな物語が動き出す。
これは、呪われし兄弟が歩む"復讐と救済"の物語。
過去の鎖を解き放つとき、彼らは何を選ぶのか。
「旅は楽しめたかい?これが兄弟の記憶だよ」
「……本当に我の記憶なのか?」
我はじりじりと靄に近づき、問い詰める。
「間違いない。兄弟の記憶だよ、残念ながらね」
鎧は淡々と言い放つと、煙の中にふわりと何かを映し出す。
「本が吾輩で、人間が兄弟だ」
「……え? はい?」
言葉の意味が理解できぬ。
どういうことだ?
昔は人間?
今の姿は、本?
「そんな馬鹿な……!」
「☒▣☑■⊡☑の呪いによって、吾輩たちはこのような姿になったのさ。」
呪い?
そんな子供じみた話で、姿や形が変わるというのか?
にわかには信じられぬ。
「……だから、吾輩は罰を与える。」
「は?」
気づけば、我は靄に向かって反論していた。
「あれは……我々にも非があったのだろう?」
「記憶を渡したのに、兄弟は逆らうのか?」
沈黙が漂う。
張り詰めた空気が、我と靄の間を満たす。
……ちと、熱くなりすぎたか。
我は深く息を吐き、冷静に言葉を選ぶ。
「我は逆らうつもりはない。ただ……あの仕打ちも、致し方なかったと思っただけだ。」
「ハッ……ずいぶん丸くなったもんだな、兄弟。昔は伊賀栗みたいだったぞ。」
「そうか……長い間、ずっと一人だったからな。それで変わってしまったのかもしれん。」
我は静かに呟く。
目は細めたつもりだが——まあ、我に目などないのだがな。
「まぁー、いいだろう。これから一人じゃないから安心しな、兄弟!」
「……ああ、よろしく頼むぞ、兄弟。」
我は、少し照れくさそうに"兄弟"と呼んだ。
靄はその言葉が嬉しいのか、細かく揺らめき、周囲に煙を散らす。
ふわりと、わずかにラベンダーの香りが漂った。
今宵、本と靄は月明かりのもと、静かに契約を結ぶ。
これから何が起こるのか——楽しみだ。
なぁ兄弟、我はどんな匂いがするのじゃ?
む??古本の香りがしておじぃーみたい?
……………。
我もフレグランスを検討するかの。
に、似合わない?そ、そんなことないわー!!
かつて人間だったはずの者が、本となり——
かつて共にあったはずの者が、靄となる。
彼らは何を失い、何を得たのか。
いや、そもそも彼らは本当に"失った"のだろうか?
この再会は、単なる偶然か、それとも必然か。
長い孤独の果てに、二つの魂は再び交わり、新たな契約を結んだ。
しかし、これは終わりではなく、すべての始まりに過ぎない。
この先、彼らを待ち受ける運命とは——。
"物語は、まだ続く。"