まばゆい光の中で
それは、誰もが幸福に包まれるはずの夜だった。
澄んだ空気に白い息が溶け、街には雪を踏みしめる子供たちの笑い声が響く。
広場では大人たちが集い、温かな灯火のもとで杯を交わし、家々からは団欒の声が漏れていた。
誰もが疑わなかった。
この穏やかな夜が、永遠に続くと——。
しかし、それは錯覚に過ぎなかった。
この夜は、ただの一夜ではない。
歴史に刻まれる、夜の幕開けだ。
季節で一番真っ白な雪が降り積もり、子供も大人も笑顔を輝かせる日。
その穏やかな光景を、黒い影が静かに見下ろしていた。
月明かりが照らし出すのは、屋根の上に立つ漆黒のフードを纏う者。
不気味な気配を漂わせるその者は煙突から白い煙が立ち昇る一軒家をじっと見つめていた。
ー—何をそんなに覗いているのか?
しばらくその場に留まり、やがて、何かを悟ったかのようにニヤリと笑みをこぼす。
そして——影は素早く闇に溶け、姿を消した。
……——!? ……っ!!っっ!!!……。
突如、家の中から騒がしい音が響く。
しかし、それは長くは続かず、すぐに静寂が訪れた。
ギィ……
木が軋む音。
誰かが扉を開け、外へと足を踏み出す。
右手には、無駄に装飾の多いナイフ。
刃先から、ぽた、ぽたと赤い滴が落ちる。
服にもべったりと赤い液体が染み込み、そこから鼻が曲がりそうなほどの異臭が放たれている。
それを気にする素振りもなく、そいつはゆっくりと雪の上を歩く。
白い雪に広がる紅の痕跡。
近くにいた村人は物陰に隠れながら怯えていた。
この家で何が起こったのか。
考えるまでもなく、答えは明白だった。
しかし、調べようとは思わなかった。
無駄な好奇心は、身を滅ぼすだけ……。
そいつは手にした黒い本に何かを囁くと、足早に町へと消えていった。
数分のたった後・・・・。
町中に、誰かの叫び声が響き渡る。
「☒▣☑■⊡☑は暴徒たちによって打ち取られた!!!!!」
ワァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
歓喜に満ちた喚声が夜空に轟く。
「沈まれ!!」
誰かが群衆を抑えようとするが、その声もまた、歓喜の熱に飲まれていく。
「よって、これより——」
「☒▣☑⊡■■■が、"血の粛清"の名のもとに、奴らを成敗してくれる!!!!」
それは、あまりにも残虐非道な一夜であった。
季節で一番真っ白な雪が降り積もり、子供も大人も笑顔が輝くはずの日。
暗い街に似つかない明るい光が差し込み、■■■■■■■■に終わりを告げる。
しかし、その光が照らす町には、かつての温もりはなく……。
そこに広がるのは、鮮血の絨毯。
先ほどまでの明るい街並みは嘘のように沈黙し、冷たい風が静かに吹き抜ける。
そして——
その惨劇に満足したかのように、暗闇の中で密かに笑う者がいた。
——その存在を、まだ誰も知らない。
静寂が訪れた町には、もはやあの夜の喧騒も、歓喜も、悲鳴も残されていなかった。
ただ、冷たい風だけが、血の染み込んだ雪を舞い上げ、どこか遠くへと運んでいく。
「誰が正しかったのか?」
それを語る者はもういない。
何も知らぬ者たちは、やがてこの出来事を"歴史"と呼ぶだろう。
真実を知る者がいたとしても、その口が開かれることはない。
だが、闇に葬られたものは、本当に消え去るのだろうか?
影は、今も静かに嗤っている。