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赤の喪失  作者: Ri0via.
2/8

箱の中身はーーあれだった

「シュフェン様、この箱を開けてもよろしいですか?」

学芸員の声で、私は現実に引き戻された。

「かまわない。……開けよう。」

私は静かにそう告げた。

学芸員の手が箱にかかる。ゆっくりと、その蓋が開かれようとしていた。

箱の中には、一体何が収められているのか——。

この場にいる誰もが、好奇心と不安を胸に抱きながら、息を呑んでその瞬間を待っていた。

学芸員たちは顔を見合わせ、一人が慎重に箱へと手を伸ばす。

錆びついた金属の蓋に指をかけ、ゆっくりと持ち上げるとーー

カチリ……。

何かが外れる音がした。

蓋が開くと同時に、展示室の空気が微かに変わった気が…。

「これは…?」

箱の中には新品同様の黒い本が一冊。

表紙には読めない文字が刻まれていた。

おそらく、古代の字であろう。

学芸員がおそるおそるその本を手に取る。

……………。

「何も起きませんね」

周囲がざわつき始める。

「まぁ、何も起こらなくてよかったですぅー」

「確かに、あの紙にはおぞましいことが書かれてあったものねぇー」

「そうね、滅んでしまったって書いてあればだれもが身構えちゃうよね」

学芸員たちは、どこか安堵したように息をついた。

「結局、ただの本だったのかしら……?」

それでも、慎重に黒い本を観察した。

「表紙の質感が妙に滑らかですね……まるで昨日作られたかのように。」

誰かが呟く。

「そうみたいね。でも、あまりにも状態が良すぎるのが不気味だわ。」

「そうよ、しかもこの箱自体、明らかに年代物よ。どう考えてもつじつまが合わないわよ。」

確かに学芸員たちの言う通り、箱自体は明らかに年代物で金属の部分はすっかり錆びつき木の部分も劣化していた。

それなのに、中に収められていた本だけが新品同様なのは、どうにも腑に落ちない。

「……とりあえず、この文字を解読できる専門家に調べてもらいましょうか。」

学芸員の一人が慎重に提案する。

「そうね。迂闊に扱って、万が一、本当に呪われていたら困るもの。」

私は静かに頷き、彼らの言葉を受け入れる。

「皆の言う通り、数日中に専門家を手配しよう。展示室のリニューアルはこの本の鑑定が終わり次第にする。」

そう決断したものの、私の胸の奥には拭いきれない違和感が残っていた。

この黒い本は、あまりにも奇妙すぎる。

外箱は錆びつき、木の部分も劣化しているのに、本だけがまるで昨日作られたかのように新品同様だった。

それに——あの時、確かに本が震えたように見えた。

……いや、気のせいかもしれない。

私はその考えを振り払い、慎重に本を保管庫へ移動させるよう指示を出した。

数日後——

専門家が到着し、黒い本の調査が始まった。

彼は歴史学と古代言語に精通した学者で、これまで数多くの発掘品や遺物を調査してきた人物だった。

「おぉー、ようこそお越しくださいました。ささっ、シュフェン様どうぞ椅子におかけになってくだされ。」

「この本を鑑定してくれ。」

「ほほう…これがあの噂の本ですな‼さて、どれどれ……。」

手袋をつけた指先で慎重に本の表紙をなぞりながら、彼は静かにページをめくる。

その場にいる全員が固唾を呑み、彼の動きを見守った。

——しかし、何も起こらなかった。

特に異常は見られず、ページには不思議な古代文字が記されているだけだった。

彼は本を調べながら、首を傾げる。

「ふむ……。確かに、興味深い書物でありますな……。」

「些細なことでも構わない。何か不可解なことはないか?」

私が問いかけると、専門家は軽く眼鏡を押し上げ、肩をすくめた。

「そういわれましても…。わしにはただの古書に見えますな。確かにこの文字は未解読の古代語……それ以上の不吉な要素は見当たらない……な。」

「では……呪いや、何か異常な力が宿っているか?」

「……………いや、まったくの杞憂でしょうな。」

専門家は微笑を浮かべながら、本を丁寧に箱の中へ戻した。

「この本は数百年以上前のもの……いや、それ以上かもしれませんな。」

専門家は指先で本の表紙をなぞりながら、しばし思案する。

「……それはさておき、シュフェン様。呪いなどというものは、あくまで単なる伝承。現時点では何の異常も確認できない。」

彼は眼鏡を押し上げ、慎重に言葉を選ぶように続けた。

「おそらく、これは古い王国の記録か、宗教的な文献でしょうな。展示しても問題はないとわしは思う。」

「……そうか。」

私は、彼の言葉に安心するどころか、逆に得体の知れない不安を感じていた。

学芸員たちも、どこか腑に落ちないような表情を浮かべている。

(……本当に、何も起こらないのか?)

しかし、専門家の判断を疑う理由もない。

私は静かに息を吐き、決断を下した。

「……鑑定、感謝する。この本は予定通り、展示することにする。」

「シュフェン様の力になれてわしは嬉しく思う。また来てな‼」

私はまた来ると学者に約束をして美術館へ急ぎ足で向かった。

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