4話 クレイ・ライトの過ち
俺、クレイ・ライトには夢があった。
幼い頃、幼馴染の女の子と交わした約束が切っ掛けだ。
——英雄。
それが、俺と君の夢だった。
この世界ではありふれた話だ。本の中、物語の主人公に幼子が憧れて英雄を目指すなんてものは。
俺と君もその例に埋もれず、『王の剣』なんていう英雄譚に憧れて冒険者を目指した。
最初はそれはもう順調だった。田舎から二人で上京して来て、王都の街で冒険者登録をして、念願の冒険者になる事が出来た。
薬草採取から始まり、徐々に狩りもしだして、二人で初めて魔物を倒した時にはもう、夜の街で盛大に祝杯を上げて喜んだ。
だけど、そんな楽しい日々がずっと続かない事を俺は薄々感じ取っていた。
君が、Dランクに上がった。
勿論、俺は喜んだ。君の冒険者としての格が一つ上がったのだ。喜ばすにはいられない。
いや、本当の事を言えば、長年連れ添った幼馴染が涙を浮かべるほど喜ぶ姿が嬉しかったのだ。
だから、俺は君に言った。「俺も、直ぐに追いつくから!」って。
君に喜んで欲しかったから。君の笑顔が見たかったから。他人の幸せを自分の事以上に喜ぶ君だから。
だけど、その日を限りに君の笑顔を見る事はなくなった。
原因は分かり切っていた。目に見えて、俺と君との実力差が開いて行ったのだ。
例えば、自分より一回りも二回りも大きい岩を持ち上げる筋力。
例えば、数一○メルはくだらない崖をするすると飛び越えて行くバネと俊敏さ。
例えば、使えなかったはずの魔法の習得。
そんな風に、純粋な力の差だけが開いて行った。
いや、君が気を遣っていただけで、きっと知識的な経験もかなりの差が開いていただろう。
正直、心臓が握り潰される思いだった。君の前では見せなかったが、夜な夜な隠れて泣いていた。
君に、偽りの笑顔をさせてる自分が情けなくて。
だから、限界は唐突な必然によって簡単に訪れた。
——君が、Cランクに上がった。
俺は絶望した。
心の底から喜べない自分に。醜い己の嫉妬心に。君が俺に向けた、引き攣った笑顔に。
何より、君にそんな顔をさせてしまった自分自身に。
もう、限界だった。
限界だったから、俺は、君から離れる事を選んだんだ。