便利屋〈CAT〉オープン
「よし、これで準備完了!」
まだ人通りの少ない早朝、二つある看板の一つを『CLOSE』から『OPEN』に引っくり返して、猫耳を付けた少年は満足気に頷いた。
「後は、お客さんが来るのを待つだけ! あ、でも、待って。どうしよ。一人もお客さん来なかったら……」
心配と動揺。膨らむ嫌な想像に少年の心がざわつく。
それもその筈で、何せ今日は少年のお店が花開く、初めての開店日である。
「来るかな……。来るかな……。あー、怖い! もう、どうしたらいいんだぁあああ!」
よって、落ち着かない。
酒場でもある店の中を歩き回りながら、少年は忙しなく感情を荒ぶらせる。
すると——。
「落ち着いて、レイ。来る時は来るし、来ない時は来ない。つまり、客次第よ」
カウンターの奥から、黒いジャケットを羽織った美女が現れる。
キリッとした顔で、『ふっ。決まったぜ』みたいな雰囲気を醸し出しているが、何も決まっちゃいない。
「メイビス……。それ、励ましてるつもり?」
「え、うん。そうだけど?」
「逆にプレッシャーだよ!」
お陰様で、心臓が破裂しそうなぐらいばくばく。
カウンターに腰掛ければ、貧乏揺すりし。立ち上がれば、店の中を歩き回り。グラスを拭こうとすれば、つるりとグラスが地面の上で破壊の音を奏でる。
一周回って、カウンターに座り、少年の貧乏揺すりが激しくなり始める頃——。
「あ、あの……。チラシを見て来たんですけど……」
ついに、お客さんが店の扉を開けた。
「…………っ」
ごくりと、少年の喉が鳴る。
汗が全身を伝い、手は震え、カウンターから立ちあがろうとすれば転けそうになった。
緊張は当たり前。だけど、その緊張に負けないぐらいずっと練習して来た事がある。
足並みを揃えて、二人でお客さんの前に立つ。
左手を腰の後ろに、腰を低く折り曲げ、右手で弧を描く。
後は、用意した台詞を舌の上に乗せて、そのまま一息に——。
「「ようこそ、便利屋〈キャット〉へ! 人捜し! 武器の修理! 代理ダンジョン攻略! 魔物退治! 何でもお任せあれ!」」