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第5話 魔王、部下にしばしの別れを告げる-①

 その夜、主立った部下である上級魔族たちを自分の城、幻楼城に集めた。


「俺からは、以上だ。五〇〇年、封印されるから、後は各々好きにやってくれ」


 ことの経緯をかいつまんで説明した。彼らの反応は様々だが、大雑把に分ければ、四種類に分けられる。


 呆れる者、俺との付き合いが長い魔族たちが多い。『また妙なことを言い出した』と顔に書いてある。


 不満げな者、これは血気盛んで、けんかっ早い好戦的な魔族が多い。


 悲しむ者、俺の部下で、俺に心酔し慕っている者が多い。報われない一方通行の忠誠心だが。


 困惑する者、上級魔族になり、俺との付き合いが浅い者たち。普通の魔族的思考では理解しがたい俺の行動に慣れていない者達。


 グラスが割れる音がする。けんかっ早い魔族の一人が酒の入っていたグラスを怒りにまかせて投げつけたからだ。


「……史上最悪と恐れられた魔王サマも、落ちたモンだ」

 オルティマスが、ソファから立ち上がりこちらを睨んでいる。


 この会合は、宴に近い。先ほどの人間たちのように、机を囲って厳正な雰囲気で会議をする習慣など、魔族にはない。

 肉と酒がテーブルに載って、思い思いに散らばっている。

 こうやって見ると、さっき上げた四種類の反応毎に、魔族たちが固まっていることがわかる。


「要するに勇者と戦って危ねえ目にあって、ぶるったから、ひとり引退しようって訳だ」

「そうなる。人間は危険だと今回の一件で再認識した。これ以上恨みを買うのはごめんだ」

「あっさり認めるなよ。あんたが強いから従ってきたが、今回ばかりはフザけすぎだろ。オレの手下にはなんて説明すりゃいいんだ」

「ありのまま伝えればいいさ」

「いい加減にしろよ、テメエ」


 怒り心頭の様子で、オルティマスが怒鳴る。

とはいえ、オルティマスの怒りは収拾可能な範囲だ。

俺との付き合いも長いので、なんだかんだ言いながらも従うだろう。オルティマスは兄貴肌だし、実力もある。

この男が従えば大体の魔族は右習えで従う。


 一人を除いての話だが。それは、自分の殺意の目を向けているーー

「不満があるらしいね、ギラード」

 オルティマスの隣、今にも先輩たちを押しのけて前に出てきそうなギラードに向かって声を掛ける。


「当たり前だろ、こんな腰抜けに俺たちは従ってたのかと、虫唾が走る。オルティマス、やっちまおうぜ」


 仮にも魔王である自分に、堂々と宣戦布告してきた。

忠実な手下たちが自分の前にかけつけて、守ろうと前を固める。


「何が不満なんだ。後は好きにしていいと言ってるだけじゃないか」

「貴様ァ」

 一触即発。いまにもギラードが飛び出そうとした、そのとき、


「やめんか」

 膨れ上がった殺意の雰囲気にも吞まれることなく、制止の声を上げた者がいた。


「クリシュナ」

 声の主、クリシュナの方を見る。

さながら子供の様に、ソファを独占して、横向きにふんぞり返り、頭は縁から飛び出し、逆さ向きでこちらを見ている。


「ギラードよ、この、ターリの珍妙な思いつきは、今に始まったことではないわ。こやつの言動にいちいち目くじらを立てておると、ロクなことにならんぞよ」

「うるせえ、ババアは引っ込んでろ」

「アァ!?いまババアって言ったかッ。この小童ッ」

 ガバッと音を立てて、クリシュナが起き上がる。

白髪をのぞき、見た目こそ幼い少女の見た目だが、二万年以上生きていて、この中でも最年長である。

そんな彼女に「ババア」は禁句だ。


「ちょっと、新しい喧嘩始めないでよ。止めに入ったのに何してるの、クリシュナ」


 牙をむきだして、ガルガルとやっていたクリシュナを後ろから、ふんわりとホローネが抱き留めていさめる。

ほっそりとした顔つきに、能面を思わせる無表情が、ミステリアスな雰囲気を醸し出している魔族で、クリシュナに次いで長生きしている。


「止めるな、ホローネ。バカガキに思い知らせてやるんじゃ」

「怒りんぼだと、寿命が縮まるよ、おばあちゃん」

「二番目におばあちゃんのお前が言うな!」

「なあ、もういいか?」


 適当なところで声を掛けた。

老女二人組が漫談を繰り広げている間に、ギラードの方はオルティマスが抑えていた。


「話を戻そう。厄介者は消した。あれだけの逸材が現れるのは、これから一〇〇〇年は先だ。そのときまで、魔族にとっては蜜月が保証されたも同然だ。俺という魔王が居なくたって、きみらで上手くやれば、何の問題も起きないさ」

 どこからか、ふん、と鼻を鳴らすのがきこえた。

『上手くやれば?それができたら苦労はない』という言葉まで聞こえてきそうだ。


 基本的に魔族は、徒党を組まない。

俺のような極端なケースは珍しいが、基本的には自分勝手な生き物だからだ。

そんな彼らを曲がりなりにも結びつけているのは、強さ。

魔族の上下関係は、どこまで行っても強さだ。


 いま、魔王を名乗っているのは、俺一人で、一つ階級が下の上級魔族は山ほどいる。

王者がきえれば、後は、混乱が残るだろう。

 俺も『上手くやれば』といったが、上手くいくとは思っていない。

しかし、俺には興味のないことだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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