『ホワイトデー』と言う名の恋物語
3月14日、ホワイトデー。
―――とある男子高校生の、ちょっとした物語。
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「うーん」
ホワイトデー前日、商店街の片隅にある菓子屋で篠谷かおるは悩んでいた。
バレンタインにて、同学年の柴山つばきという子から『本命』のチョコを貰った。
それのお返しをしたい、そう思っていた……のだが。
(お返しって何を渡せば良いんだろう。こういうの、したこと無かったしな……)
今までホワイトデーのお返しには無縁だった事があり、どういうお返しをしたら喜ばれるか分からないのだ。
……手作りは流石に無理だろう、と思って学校近くの菓子屋に来た訳である。
そこに、一人の女性が話しかけてきた。
「あれー?かおる君じゃん。どうしたん」
その方向を向くと、文芸部の波島先輩が立っていた。
確か、ここの菓子屋は先輩のアルバイト先だったっけ。
「……あ、先輩。いや、その」
しどろもどろに返すと、波島先輩はニヤリと笑う。
「こん時期にメーデル (菓子屋の店名) に居るっちゅう事は、例のお返ししたいって思ってるんとちゃう?」
こればっかりは図星だ。
まあ、そういうお客さんを見てきたのもあるのだろう。
「先輩の言う通り、です。どれを選んだら良いのかなって」
そう言われ、先輩は少し考える。
「そんならな」
先輩は店内の奥に、手招きをする。
着いていくと、『メッセージクッキーを作ろう』と手書きのPOPがある所へ招かれた。
「ここの店な、お祝い事とか感謝の気持ちとかの寄贈品に、こういった事してるんよ。これやったら、ええと思ってな」
そう、先輩が付け加えて説明する。
―――確かに、こういうお返しも良いかもしれない。
「あ、あの。これでお願い出来ますか」
「ホンマか!早速、店長に言ってみるで」
先輩はそう言って、店の事務所へと入っていった。
▫▫▫
「ほんなら、何て書こうか」
仕事着に着替えた先輩が、そう言う。
「うーん。そうだな……」
いざ気持ちを出してみようと思ったが、なかなか思い浮かばない。
「んー、素直な気持ちを言ってもえぇと思うんよ?こういうのって……それに」
先輩は耳元に口を近付ける。
「お相手さん、つばきちゃんやろ。かおる君とお似合いやしー」
それを聞いた途端、顔が紅く染まるのが分かった。
「き、きき、急にそんなこと言わないでくださいよ!」
先輩は肩を叩く。
「わっかりやすいなぁ、かおる君はぁ。気付かんと思ってたん?」
「そんな事言わんと、早よ書かんかい。お客さん困っとるやろ」
厨房の奥から、店長がそう言う。
「はぁい、すいません……っと、ほんでどうする?」
先輩が改めて言う。
「そ、それじゃあ……」
▪▪▪
翌日。
ホワイトデーの当日になった。
実のところ上手く渡せるかどうかそわそわしていて、あまり寝れなかったのだ。
「おい、お前大丈夫か」
同級生の友達に、そう言われる。
「じ、実は」
ホワイトデーの事を少し話した。
「そうだったんか。そりゃ……そうなるかもしれないな」
苦笑いしつつも、そう返した。
「まあ、とりあえずは頑張れよ」
そう言って肩を叩いた。
―――その日は卒業式前で早く学校が終わり、教室を出たつばきを呼び止めた。
「どうしたの、かおるくん」
「ちょっと渡したい物があって、いいかな」
そのまま校舎裏の方へ向かい、着くと同時に箱を取り出した。
「これ……もしかして?」
そう、つばきが言う。
「うん、バレンタインのお返し」
つばきは、興味津々で箱を見る。
「ねえ、開けてもいい?」
「うん、いいよ」
箱を開けた途端、彼女は笑顔になった。
―――そこには、『ずっと隣にいて欲しい』と書いてあるクッキーがあった。
バレンタインのアンサーがあっても良いと思いました(小声)