イケメン以外に用はない・7
(さぁ、転びなさいローニャ。
ワザとらしくでいいわ。メイソンに縋り付くように足を滑らせるのよ)
遺跡に向かう途中でチャームが俺に指令を出す。
この指令とはつまり、男を誑かすためのチャームのテクニックだった。
(そんなことをしている場合じゃないっ!!
これから殺しあいに行くんだぞっ!!)
俺は無駄な抵抗だと知りつつも、チャームに抗議する。
(あら、そんなこと私には関係ないわ。私は色欲の魔神シトリーの娘。
なによりも男女の愛欲に命を捧げる呪いなの。
さぁっ!! やりなさい。ローニャ。やるのよっ!!
貴女も本心ではメイソンの華奢なようで男の匂いが秘められた体に抱きしめられたいと思い始めているのでしょ?
私に嘘は付けないわ・・・。貴女の胸の高鳴りを私が感じてないと思って!?)
(や、やめろっ!!)
俺はチャームには逆らえない。全ては無駄な抵抗だった。
そして彼女の言う通り、陽が落ちかけて呪いの力が増しているこの状況下では俺はメイソンを異性として求めている。
彼の瞳を見るたび、息遣いを聞くたびにトクン、トクンと高鳴る胸の鼓動と紅潮する肌の熱さを自覚していたからだ・・・。
(やめろ・・・やめるんだ。
踏みとどまれっ!! これから俺は殺しあいに行くんだぞっ!!)
何時まで男としての自我を保てるのかわからないまま、俺は自分に言い聞かせた。
いや、これは魂の願いだった・・・。
「きゃっ・・・っ!!」
だが、それは無駄なあがきだった。
俺は無意識にチャームに指示された通り足を滑らせてメイソンに抱き着いていた。
(ふふふ・・・。そうよっ!!
上手いじゃないっ!! ローニャっ!!
そこで彼に囁くの、逞しいのねって・・・。男なんて単純よ。
女に頼りにされていると思ったら有頂天になるわ。)
(・・・ほ、本当?)
俺は心の中で不安そうな声を上げながらもチャームに促されるまま、メイソンの気が引きたくて言われたままに声をかける。
「ご、ごめんなさいっ・・・。私ったら、決戦の前に不安になっているみたい・・・。
こんなところでつまづくなんて・・・」
「大丈夫ですよ、ローニャ殿。
僕があなたを守りますっ!!」
「うん。頼りにしているわ。
だって、アナタ。こんなに逞しくて、優しいんだもの・・・。」
俺がメイソンの腕に縋り付きながら、その腕を胸で包むように抱き寄せると、初心なメイソンは顔を真っ赤にしながらも誇らしげに笑った。
「まかせてっ!! ローニャ。君は僕が守るからっ!」
(ああ・・・。簡単に落ちたわね。
ねぇ? ローニャ言ったでしょ? 男なんて単純よ。このままあなたの魅力で彼を虜にしちゃいなさい。
大丈夫。貴方は可愛い。綺麗よ。自信をもって・・・)
(う・・・うん。)
その時、既に私は自分が男では完全になくなり、色欲の呪いに支配された哀れな女になってしまっている事さえ自覚できないようになっていました・・・。