イケメン以外に用はない・6
「全員、止まれー。」
化物が占拠している遺跡が近くなったので隊長のハンスが小さく声を上げながら頭上に掲げた右腕を回すと兵士一同は速やかに停止する。
ハンスは全員が止まったことを目視で確認してから命令を出す。
「ここからは音を立てないように先行部隊は徒歩で移動する。
後続部隊は我々が突入した合図の笛が鳴ったら先行部隊の馬も引き連れて突入せよ。
人質を馬に乗せて速やかに撤退する。無駄な戦闘は避けろ。あくまで人質救出がメインだ。」
そこまで言うとハンスは俺を指さして説明する。
「この赤鎧の少女はローニャだ。
先の戦いでオーガを倒した我らの主戦力。彼女がオーガを引きつけてくれる間に作戦を遂行する。
撤退の際には決してこの赤鎧を見落とすな。誰でも良い。必ず馬に乗せて連れ帰れ!」
ハンスは俺が孤立しないように厳命を下すと、俺の肩に手を置いて
「ローニャ。君に護衛を付ける。弓兵2名だ。
まだ若いが腕は保証する。援護射撃で君を守ってくれる。死ぬなよ。」とだけ口にすると下馬する。
それを合図に先行部隊も全員、下馬するのだった。
同じように俺が下馬した時、二人の弓兵が俺の前に立った。
「ローニャ殿。隊長より貴女の護衛を仰せつかりましたオリバーとメイソンです。
若輩者ですが、命に代えてもあなたを御守りいたしますのでご安心ください。」
俺の前に立ったオリバーは普通のどこにでもいる風貌の青年だったが、メイソンはまだ幼さの残る美少年だった。
フワフワの金髪に青い瞳。白い肌に引き立つような赤い唇。
まだ少年だがそれでも少女サイズの俺よりも頭二つは大きい背丈。成熟し切っていない細く薄い肉体美は母性本能がくすぐられてしまう。
そして、メイソンが俺を励ますためにかけた囁くような優しい、甘い声に俺は腰砕けになりそうになった。
(あんた・・・。本当にイケメン以外に興味ないのね。
それ以外の事に全くと言っていいほど関心がないのに、メイソンに対するその詳細な描写は何?)
チャームが悪戯っぽく俺の魂に囁きかけてきたので、俺も心の中で抗議する。
(うるさいっ!! 誰のせいで俺がこんな風になっていると思っているんだっ!!)
・・・これは、マズいな男に惚れやすくなっている。
そう思って空を見ると日が西に傾きかけ、夕暮れの暗がりが俺達の姿を消してくれようとし始めていた。奇襲するには最高の条件だ。夕暮れの暗がりは敵に見つかりにくい。
と、同時に俺の呪いが強くなり始める時間でもあった。
教会ではナリを潜めていたチャームが行動し始めたのが何よりの証拠だ。
太陽の加護が失われた時、俺は心身ともに真の女となり、そしてチャームに簡単に操られてしまう。
つまり、イケメンを誘惑し、色欲の虜にしようとしてしまうのだ。
しかもさらに困ったことに、その時の俺の性癖はチャームと完全にマッチしてしまうのだった。
今は嫌だ嫌だと否定していても、その時には決して誘惑に抗えなくなってしまうのだ・・・。