イケメン以外に用はない・1
(ねー、次の街はまだぁ?
私、飽きちゃったぁ!!)
俺の肩の上に寝そべるようにして乗っている掌サイズの女が同じ景色が続く旅路に飽きて愚痴を言い出した。
「うるさい。もうすぐで到着するんだ。黙ってろ!」
俺は愚痴を言う女「チャーム」に文句を言いながら右手で肩から払い落とす仕草をする。
霊体の彼女に俺の右手は触ることなどできない事を知りつつも、そういった邪険な扱いを受けるのは不快のようで「何よー!」と、怒りながら肩から飛び立つのだった。
(全く、後で覚えていなさい。
目ぼしい美男子を見つけたら、アンタが泣いて頼んだって誘惑させてあげるんだからねっ!)
チャームは邪悪な笑みを浮かべながら俺に復讐を誓った。
「ふんっ。どうせ、俺が何をしようと、お前は俺を操って男を誘惑するつもりなんだろ?
呪いのクセに一々うるさいんだよっ!」
そう。俺の旅の同行者であるチャームは実は俺の体にかけられた呪いが具現化した存在。
チャームは自分の生みの親である色欲の魔神シトリーの本性を受け継ぎ、俺に男を誘惑させようとするのだ。
そして、最悪なことにこの強力な呪いは最高位の司祭でも祓う事が出来ないのだった。
俺の旅の目的はこいつを祓うこと。そして男に戻って魔神シトリーを殺した英雄として堂々と故郷に帰り錦の旗を飾るのだ。その事を夢に見ている。
残念ながら、その見通しは未だ立ってはいないのだが・・・。
俺がそんな彼女を疎ましく思いながら馬を歩かせていると、やがて峠道を超えて遠くの景色の中に俺が目指す街が確認できた。
(あら、とうとう新しい街が見えたわね。
いい男がいるといいわね?)
「言ってろバカ。色男なんか、そうそういてたまるか!」
幸いなことに面食いのチャームは色男以外には興味を示さない。つまり美男子以外には男を誘惑する呪いを発動させないのだ。
俺は平穏な冒険生活を送れるように次の街にはイケメンがいないことに期待するのだった。
だが・・・
(あらぁ? 町の様子が変よ?
まだ煮炊きの時間じゃないのに、あちこちから煙が上がってるわ?)
確かにチャームが言うように町のあちこちから黒い煙が上がっていた。
その不規則な煙の上がり方を見て俺は瞬時に総毛立った。
「ばかっ!!
あれは戦争の炎だっ!! 敵襲を受けてるんだっ!!」
俺は馬を急がせて町へと向かう。城門近くまで来ると破壊された城門の隙間から大暴れする巨大なオーガの姿とそれに従うゴブリンたちと応戦する人間の姿が見えた。
「ちっ!! ゴブリンを引き連れたオーガかっ!!
厄介だなっ!!」
俺は城門を抜けると馬を降りてゴブリンたちに切りかかる。
「やああああっ!!」
気合い一閃。一番手前のゴブリンを背後から横薙ぎに切り払うと、次々と別のゴブリンを切り刻んでいく。
子供の背丈ほどの体躯をしているゴブリンたちは女になった俺の剣戟でも一刀両断できる。
町の兵士たちの方を向かって戦闘していたゴブリンたちは突然、背後からの奇襲を受けて大混乱だった。
「旅の者だっ!! 助勢するっ!!」
「おおっ!! かたじけないっ!!」
化物の奇襲を受けたと思われる町の兵士たちは俺を歓迎してくれた。