幼馴染が追ってくるっ!! 2
太陽がどうにかその尊厳を保ってまだ僅かに空を茜色に染めているうちに俺は場末の酒場を訪れた。
その店は場末の酒場に相応しく、荒くれ者と娼婦が色ごとを囁きながら酒を酌み交わす店だった。
イケメン以外に興味を示さない俺とチャームは、汚らしい男どもには目もくれずにカウンター席に座ると
「肉のスープとサラダとパン2切を」と短めの注文をする。
こういう場末の店は店主であっても油断ができない。愛想を振りまくと言い寄ってきかねないのだ。
なにせ、俺。美少女だし。
そうやって他人からの干渉を拒否する姿勢を見せて食事をしていても俺の美貌に男たちは興味津々のようで、言い寄ってくる者も出てきてしまう。仕方がない。だって俺、可愛いし。
「やぁ。君可愛いね。
一人かい? こんなところに君みたいな女の子が一人で来たら危ないぜ?
俺と一緒の席に来なよ。守ってやるぜ?」
優しい素振りで力が強そうなオッサンが俺に声をかけてくる。
俺の基準じゃ及第点には足りない面だ。だが、贅肉一つない鍛え上げられた肉体はかなり良かった。顔と肉体美を差し引きすればギリギリ、いけるかもしれない。
(ううっ!! ちょ、ちょっといいかも・・・)
(何言ってんのよっ! しっかりしてよ、ママっ!!)
(はっ!!)
あ、危ないところだった。
(ローニャ。あんたハンスの時といい、オッサンに弱くない?)
(よ、よわくないもんっ!!)
我に返った俺は長剣を見せつけて威嚇する。
「黙れ、オッサン。
自分の身は自分で守れる。痛い目を見たくなかったらさっさと消えなっ!」
「な、なんだとっ!?
女のくせにやろうってのか?」
俺の威嚇に腹を立てたオッサンがカウンターの天板を叩いて怒る。それを見た店主が
「おい、マイク。やめろ。
女相手だ。さわぐんじゃない。
それともまた面倒を起こして牢屋に入りたいのか?」と、間に割って入って守ってくれた。
意外といい店主だ。
だが、マイクだけでなくマイクがいたテーブル席に座っていた仲間たちまでも俺の周りに集まってきた。
「おーい。痛い目を見るより、楽しく気持ちいい思いできた方がいいだろ?
面倒起こすなよ?」
と、マイクの仲間たちが俺を囲んで忠告する。逆らったら力づくで凌辱されてしまうかもしれない。
全員、鍛え抜かれた肉体をしていた。
しかも、余所者が揉め事を起こしていることを面白がった他の客たちも店主が止めるのも聞かずに集まってきた。
俺はいつの間にか20人以上の戦士に囲まれてしまっていた。
マズい。この人数では流石に勝ち目どころか逃げることも不可能かもしれない。
俺が男たちから向けられる暴力を想像して背筋が震えあがったその時だった。
「やめろ!! レディに手を出すんじゃあないっ!!」
と、颯爽と一人の男が大きな声を上げて止めに入った。
こんな酒場には不似合いな貴族風の男だった。
その男には見覚えがあった・・・
俺の幼馴染のアルバート・ヴァン・カール・フランソワーズ・ガルシア。
最高峰の神官騎士だった。