あてのない未来 2
「フェリックス。私が彼女の支配する神殿に連れていかれてしまったら、もうそこでは貴方は何も手出しできないはず。違いますか?」
私の言葉にフェリックスは「そ、それは・・・」と口ごもることしかできなかった。そして、それは肯定の意味だった。
いえ。それどころか、もしかしたら私がメリナの神殿に連れていかれたら、その後、フェリックスはメリナたちとは別行動になる可能性さへ否定できない。
そうなるといよいよ私の逃げ場はなくなる。それに闇の勢力の神殿に入ってしまえば例えメリナが私にいやらしい事をしなくても、私とチャームは魔神シトリーの魔力に魂を作り替えられてしまうだろう。
チャームはアルバートの光の神聖の影響が消えて元に戻ってしまうだろうし、二人で準備した魔よけだっていつまで効果があるか怪しいもの。
「お願いっ! フェリックスっ!!
逃げるならメリナが傷つき、監視の目が行き届いていない今しかないのっ!!」
私は必死になってフェリックスに懇願した。
そんな私を哀れに思ったのか、それとも彼の心の中に私に対する別の感情があったのか・・・・・・
フェリックスは困ったような顔で私から視線を逸らすと、ため息をついた。
「はぁっ・・・。
ローニャ様。この先で地下通路は2手に別れます。
貴女様は右に行ってください。そうすれば、先ほどの拠点の東側に出ます。」
フェリックスはそう言うと部下の長剣を私に手渡してくれた。
「良いですか? 今の貴女様は光の勢力にとっても標的です。
決して奴らにも我らの同胞にも見つかってはなりません。」
「ありがとう、フェリックスっ!!
この恩は忘れないわっ!!」
彼の心遣いに感謝すると私は歩きだした。そして、分かれ道まで到着するとフェリックスは出口までの私の護衛に3人のオークまでつけてくれた。
「それでは、ここでお別れに御座います。
貴女様が行方不明の知らせを聞いたメリナ殿が何もしないわけがありません。
きっとローニャ様を追いかけてくるでしょう。私はせめてもの足止めをしなくてはいけませんので、ここまでです。」
「ありがとう、フェリックス。
でも、無理をしないでね? 彼女は恐ろしい女よ。下手に逆らったらどんな目に合うかっ・・・!」
心配でそこまで言わずにはおられなかった私の唇はフェリックスの人差し指で止められてしまった。
「大丈夫です。彼の恐ろしさは私の方がよく知っております。
まぁまぁ、上手くやって見せますよ。どうぞ、ローニャ様は安心して旅に出てください。」
ニッコリ笑って、そこまで話すとフェリックスは自分のマントを外して私にかけてくれた。そして、まるで恋物語の王子様のように颯爽とその場を離れていった。
その後ろ姿は何か男の覚悟のようなものを感じさせた。
(ねぇ・・・ママ。
彼ってちょっといい男じゃない?)
(うん・・・。)
フェリックスの姿に私たちは胸が少しトキめいてしまうのでした。これも色欲の呪いの影響か。それともフェリックスの男としての魅力が成すことか・・・。