訣別の時 27
その言葉に私は首を横に振った。
「でも、アルバート様はフェリックスを殺すおつもりでしょう?
私のチャームもっ!?」
私の返答はアルバートの予想をはるかに超えたものだったようで明らかに狼狽えた。
「チャ・・・チャームだと? あの呪いが具現化した女の事か?
そ、それにそのオークの事も救おうというのか?
な・・・何を言っているかわかっているのか? 君は。
そいつらは闇の勢力なんだぞっ!!」
「わかっています! でも、私は彼らに命を救われたのですっ!!
見捨てることは出来ないっ!
それにチャームは私の娘です。
私の体にかけられた呪いの具現化とはいえ、彼女には慈悲の心がありますっ! 優しさと愛情をもって他人に接することができる良い子ですっ!!
その愛情は・・・アルバート様っ!! 貴方にもかけているのですっ!」
「おぞましい事を言うなっ!! ローニャっ!!!」
私の説得はアルバートの耳に届くはずがない。即座に否定された。
「愛情だとっ!? 寝言を言うなっ!!
奴は闇の勢力の呪いだっ!! 君は洗脳されているんだ、わからないのかっ!?」
憎悪に満ちた目で吐き捨てるように怒鳴る彼を見て・・・・・・・・・・・私は説得を諦めた。
諦めて・・・・・・真実を話す。
「・・・・・・ディエゴなの・・・」
震える声で絞り出すようにして告白する。
「・・・なに?」
突拍子もない言葉を聞いたアルバートは顔をしかめた。意味が通じていないのだ。
「私が・・・私が・・・・・・ディエゴなのっ!!
魔神シトリーを討伐した時、今際の際の魔神シトリーに女性化の呪いをかけられ魂まで塗り替えられたっ!!
それが・・・・・・私、あばずれローニャの真実なのっ!!」
「・・・な。何を言っているんだ?
君が・・・・・・ディエゴ? 魔神シトリーに・・・性別を変えられた・・・?」
動揺し、現実を受け入れられないアルバートに私は最後の別れをする。
「今の説明でディエゴが魔神シトリーを討伐した後、消息不明になった理由も。
私がディエゴの家宝の大小の剣を持っていた理由も。
私が魔神シトリー死後に何故か呪いを被った理由も・・・・・・すべてが説明がつくでしょう?」
「・・・そ、そんな。何をバカなことを・・・・・・ローニャ・・・」
アルバートは泣きそうな目で私を見つめ絶句した。
全てを察した目だった。
そして、全てが終わった瞬間だった。
「アルバート様。貴方が追い求めた男はもういません。
ここにいるのはあばずれローニャと呼ばれるかつてのディエゴです。
さようならアルバート様。私の魔力を振り絞って貴方に加護を与えます。
だから・・・どうか・・・死なないで。幸せになって下さい。」
私はそう伝えると命を削る思いで魔力を振り絞って地の精霊ベヒーモスにアルバートの保護を求めた。
その詠唱が終わる間もアルバートはショックのあまり固まっていた。
アルバートの涙に潤む瞳に私の胸は強く痛んだけれど、迷う心はなかった。
今。今、この時をおいて私達が訣別するタイミングはないのだから・・・・・・。
・・・そう覚悟を決めて私は通路を破壊する装置の作動させる。
地響きと共にグラグラとアルバート側の通路の天井が揺れる。
崩壊する瓦礫と、私の魔法によりアルバートを守ろうとする巌の防壁が発生する様子を霞む目で見つめながら、私は意識を失っていった・・・・・・