訣別の時 21
明らかに劣勢な討伐部隊。これも私がメリナに囚われてしまったのが原因。
そうでなければアルバートはこんな無茶な特攻を仕掛けたりはしなかった。後続部隊の到着を待ってから攻勢に出ていたはず。
こうなったのは全て私のせい。
もはや討伐隊が生き残る道筋はアルバートの真の切り札である大天使召喚の奇跡以外なかった。
そして、その決断を迷うアルバートではなかった。
「私の体に触れることができる者は、今すぐ私に手を触れよっ!!
今から大天使を召喚するっ!!」
アルバートの声を聞いたメリナは明らかに狼狽えたように「だ、大天使召喚ですって!?」と声を上げた。
私は彼女のその姿を見て違和感を覚えた。
(・・・・・・?
どうして彼女はそこまで狼狽えるの?
仮に大天使をアルバートが召喚してもここには大天使と対等の存在である魔神シトリーがいる。
そして、数の優位は依然、闇の勢力にある。
なのに・・・・・・何故?)
私の心の声を聴いたチャームも疑問を感じていた。
(おかしいのはメリナだけではないわ。
お父様もおかしい。いくらお父様でもこんな短期間に再臨なされることは不可能なはずよ。
いくら大秘術をもってしても一度、依り代を失ってしまったお父様の再臨がこんなに短期間に叶うほど世界のルールは甘くないはず。
そんなことが可能なら他の神々も実践しているはずだもの・・・。)
私と一緒で大量の魔力を失ったチャームは息も絶え絶えの体で違和感の正体について考えた。
(・・・・・あっ! もしかして・・・)
チャームは何か閃いたように魔神シトリーを観察するように見つめると、何かに納得したかのように頷いた。
(聞いて、ローニャ。きっとあのお父様は完全じゃない。
いえ、それどころかあれはお父様の魔力を注ぎ込まれた幻影のようなものなのだと思うわ。
だとすれば、このままではいけない。
アルバート様は大天使を召喚してお父様の幻影を消し飛ばすことには成功するかもしれないけど、明らかにやり過ぎよ。
この神殿は大天使の有り余った力に耐えられなくて崩壊するっ!!
全員、死んでしまうわっ!)
チャームの嫌な予感を聞いた私は、慌ててアルバートを止めるために声を上げようとする。でも、体に力が入らない。
一方、アルバートは自分の周りにいる者達の生命エネルギーを少しづつ借りて大天使を召喚しようとしている。しかも、大天使召喚に集中するために5人の天使の撤収まで頼もうとしていた。
この非常事態を伝える時間的猶予も方法もなかった。
そこでチャームは一つの決断をする。
(ママっ! ここは闇の勢力の神殿。
いたるところにお父様の魔力にあふれている。
今のダメージにまみれた私の体には急激な吸収をすることはできないけど、貴女の体に透過させて供給させることは出来る。
だから、ママっ!! オークもエルフも討伐隊も・・・・・・アルバート様も・・・・・・皆を救って)
チャームはそう言うと闇の神殿にあふれる魔神シトリーの魔力を吸い取り始めた。
それはまるで小川に口をつけて川の水を飲み干そうと挑戦しているかのようだった。