訣別の時 16
メリナは嬉しそうに笑う。
その笑い顔を見て彼女が私を神殿に連れて来た目的を悟った。
彼女は私と光の勢力を分断することを狙っていたんだ。
御大層な神殿の玉座に私を座らせ、オークたちに私を守らせる。
魔神シトリーの魔力に汚染された私のそんな姿を見れば誰もが私の存在を疑う事だろう。
現にナタリアとレジーナも私を疑いの目で見ている。特に教会に仕える聖騎士のレジーナは闇の勢力に対して敏感だ。アルバートが腹心の部下と認めるほど優秀な彼女が私を敵と認識し始めていた。
しかし、アルバートは神官騎士。レジーナ以上にチャームの存在を察知していた。
「ローニャっ!! そいつから離れろっ!!
そいつは呪いの具現化した姿だぞっ!!
どういう経緯かわからんが、君は明らかに魔神シトリーの呪いをかぶっている。そして、恐らくその女の正体は呪いそのものだっ!!
その女の体から君の体に禍々しい魔力が流れているっ!!
そのままその化物とのそばにいたら君の魂が汚染されるぞっ!!」
アルバートは正確に状況を見抜いていた。
しかし流石の彼でもこの神殿の外では気が付くことさえできなかったほどの存在だったチャームが私とずっと一緒にいたことまでは知らない。だから、アルバートは諸悪の根源であるチャームがいきなり現れて私を汚染しようとしていると思ったのだろう。
大剣を抜き取ると宣言する。
「待っていろローニャ。直ぐにその化物を殺して君を助け出してやる。」
恋物語の王子様のようにカッコいいセリフ。乙女なら誰でも恋に落ちてしまいそう・・・。
でも、その言葉を向けられたチャームは絶句した。
(ア、アルバート様っ・・・)
チャームは絶望して泣き出してしまった。
無理もないわ。だって生まれて初めて本気で愛した男性から忌物ように殺すと宣言されてしまったのだから・・・。
私は必死でチャームを守る。
「ち、違うわっ!! アルバート様っ!! この子は違うのっ!
悪い子じゃないわっ!!」
しかし、光の勢力の最強の神官騎士の心には何も響かなかった。
「落ち着けっ! ローニャ、君はその呪いに魅了され、とり憑かれている。
絶対にその化物の言う事に耳を貸すなっ!! 私の言葉を信じろっ!!
必ず私が助け出してやるっ!」
(・・・ああっ!! い、いやあああ~~~っ!!)
悲鳴を上げて泣きだしたチャームをかばうように抱きかかえる私の姿を見て冒険者全員がさらに私を疑った。
「おいっ! あの化物をローニャが庇っているぞっ!
彼女は本当に闇の勢力なんじゃないかっ!?」
その混乱は冒険者たちの連携の乱れをも生み出す。
それがメリナのもう一つの狙いでもあった。
「もの共っ! 敵が狼狽えているぞっ!!
今こそ攻撃の機会っ! 一気に突撃せよっ!! 」
メリナの命令を聞いたオークたちは、既に攻撃の気運が上がっていたこともあり、速やかに行動を開始する。
混乱する冒険者たちは数でも劣る。戦局は闇の勢力の方に傾き始めていた。