訣別の時 14
メリナに衝撃的なことを言われた私は恐怖のあまり呆然自失となり、メリナに手を引かれるままフラフラと後ろをついて歩き、神殿に入り、彼女に言われるがまま再び玉座に座らされる。逆らう気など起きなかった。
・・・だって自分の体が逆らえない精神にされてしまっていることを知ってしまったのだから。
(こ、怖いっ!! 怖い、怖いっ!!
わ、私どうなっちゃうの? ほ、本当に彼女の言う通り魔神シトリーの言いなりの人形にされて弄ばれてしまうというのっ!?)
裸同然の姿でオークたちの前に座らされることも、その姿をアルバート様たちに見られてしまう事も今は頭になかった。ただ、自分の体がさらに作り替えられてしまう恐怖に心が支配されていた。
私が大人しくなったのを確認したメリナは、私の前に跪き、私の足先に口づけをすると満足げに微笑み部下たちを鼓舞するかのようにオークたちの言葉で何か叫んでいた。
彼女の言葉に鼓舞されたオークたちが大声で雄たけびを上げ戦いの気運が上がる。
しかし、その雄たけびのおかげでチャームは私にだけ聞こえる声で助言をしてくれることができた。
(恐怖に支配されないでローニャ。大丈夫よ。
お父様の支配はこの闇の支配地の中だけの事。外に出れば御守りの加護もあるし元に戻れるわ。)
(ほ、本当っ!?)
私がチャームの言葉で元気を取り戻した瞬間だった。凄まじい爆音が神殿内に響き渡った。
「・・・来たか。
フェリックスっ!! ローニャ様を敵に見えるようにして御守りしろ。人質を取っているように見せかけるのだっ!!」
その言葉に一瞬、顔をしかめたフェリックスだったけど、つい先ほど反抗したばかりと言う事もあり渋々彼女の言うとおりに従った。
部下のオークたちを私の前後に配置しつつ、一方通行な入口から私の姿がよく見えるように隙間も作るのだった。
こちらの陣形が整ってしばらく経ってからの事、恐らく外で守りについていたオークたちが悲鳴を上げながら神殿内に逃げ込んできた。酷い傷を負っている者も大勢いたが、それも直ぐに楽になった。
いや、冒険者の弓矢で楽にさせられたのだ。寸分違わぬ急所への一撃を連射できる者など今回の討伐隊のメンバーの中には一人だけ。恐らくはレイモンドの仕業だろう。
そうやって騒がしく神殿内に逃げ込んできたオークたちが死ぬと、神殿内には静寂が訪れた。
しばらく誰も声も挙げずに息を殺して敵が侵入してくるのを待ち構えていた。そしてそれは討伐部隊の者達も同じだった。
いつ来るのか? いつ出るのか?
両者の緊張が高まり高まった時、入り口から神殿内に巨大な雷光が入ってきた。
「・・・これは・・・ライトニングっ!!」
忌々し気にメリナが呟くと同時に閃光が神殿内を見たし、前衛の者達の目が焼かれた。
そして、その隙をついて分厚く巨大な木製の楯を担いだ冒険者達が突撃して、素早く陣形を整える。
地面に突き立てられた矢避けの為の楯はまるで巨大な擁壁だった。
続いてその擁壁に守られるようにしてアルバート達が姿を見せるのだった。
「アルバート様っ!!」
(アルバート様っ!!)
感極まって二人してアルバートの名を叫んだ私達を見て冒険者たちは目をむいて驚き叫ぶのだった。
「なんだっ!? あの禍々しい魔力に満ちた巫女はっ!?」