訣別の時 10
大変申し訳ございませんでした。予約投稿ミスで決別の時10と11が逆になっていました。
私が宝石を銀の鎖でくくるのに悪戦苦闘している間に、どうにか寝室の清掃が終わったとエルフが報告に来た。
メリナは私を寝室まで案内すると、再び指揮に戻っていった。
寝室を去っていくメリナの後姿は落ち着いたものだった。
きっとメリナはアルバートの恐ろしさに気が付いている。
アルバートが大天使召喚が使えるほどの存在だとまでは気が付いていないだろうが、それでも彼と戦えば命はない程度の事は彼女自身はよくわかっているはず。
にもかかわらず彼女が落ち着き払っているのはフェリックスが言うように私を逃がす策があるから。そして、それ以外にも恐らく彼女はアルバートを迎え撃つ何らかの策を持っているのだと思われる。
そのことが私を心配にさせた。
(ローニャ。そこは今、私達が心配しても仕方が無い事よ。
大丈夫、アルバート様ならどんな窮地も叩き潰すわ。
それよりも問題は貴女の方よ?)
チャームはそう言うと魔除けの作り方を説明する。
(まずは私が紙に魔法陣を下書きするから、貴女は私が書いた紙を宝石に乗せて銀の鎖の端っこで宝石を削って宝石の裏側に魔法陣を描く。
出来上がったら、蝋燭を丁寧に塗り込んで魔法陣を保護する。蝋燭は目くらましにもなって一石二鳥ね。わかる?)
「・・・う、うん。」
私が納得したのを確認してからチャームは自分の体よりも大きい鉛筆を抱きかかえると紙に魔法陣を描く。
その魔法陣は私が見たこともない様式だった。きっと魔神たちが住む異世界の魔法陣なのだろうと思う。
彼女は魔法陣を描きながら「赤い宝石は火の魔法が得意な貴女の魔力を強化してくれるはずだから、よりお父様の魔法に対抗できるようになるはずよ」と、説明してくれた。
確かに宝石と銀の鎖で出来上がったネックレスを首から下げると少し魔力が強くなった気がした。
「これで悪夢を見ずに済むのかしら?」
(そうね。でも何日も無事ってわけにはいかないと思う。
お父様が魔除けに感づいてメリナに連絡したら、首飾りを取り上げられて終わってしまうわ。
だから、何としても私達は早急に脱出する必要があるの。)
チャームは緊張感ある表情で私に警告した。
「そうね・・・。」
私がチャームの言葉を胸に刻んだ時の事だった、不意にフェリックスが部屋のドアをノックした。
「ローニャ様。チャーム様。
今、よろしいでしょうか? 配下の者達の貢物を届けに参りました。」
「・・・貢物?」
今、既に好待遇を受けているというのに、これ以上、何をくれるというのだろう?
でも、フェリックスには申し訳ないけれどオークの宝物ってなんだかゾッとするわ。どんな不気味なものを渡されるかわからない。
でも、チャームは(彼らは私の眷族。無碍にはしないで。)と頼んできたので、仕方なくドアを開けた。
すると・・・
フェリックスは手に持った大きな箱から溢れるほどの美しい金銀宝石を届けてくれたのでした。