訣別の時 9
「銀の鎖と赤い宝石・・・それに蝋燭と紙と鉛筆に・・・甘い飴?
そんなものをメリナに用意させてどうするの? チャーム。」
チャームがメリナに用意させる物を疑問に思った私。チャームはそんな私に対してため息をつきながら真意を話す。
(はぁっ。いい? ローニャ。
今からお父様の夢の魔法からあなたを守る魔除けを作るの。
でもね、その為に必要な物だけを集めたらメリナは察してしまう。流石のメリナもお父様の魔法に抗う魔除けを私達が準備することを看過しないわ。自分の事よりも神のために尽くす。
だからメリナに魔除けを準備していることを悟られないようにカモフラージュで不必要なものも用意させたの。)
「・・・なるほど。いい考えだわ。」
(そう。とりあえずメリナが戻ってきたらママが何をするべきか教えておくわね。)
そう言ってチャームは私の耳元に来ると小声で作戦を話した。私が彼女の話す要領を覚えてからメリナを待っていると、やがてメリナが私達の元へ戻ってきた。
「大変お待たせいたしました。チャーム様。
・・・ただ、その・・・。申し訳ございませんが飴はご用意できませんでしたので、代用として料理で使う蜂蜜とお紅茶をお持ちいたしました。」
メリナは申し訳なさそうにそう言うので、チャームは彼女を労いつつ、彼女の持参した物を物色する。
(甘い物が用意できたのなら、それで構わないわ。
・・・あら、随分立派な蝋燭を用意したのね。おかげで今夜は楽しくなりそうだわ。ねぇ、ローニャ?)
「ええっ!? そ、そんなのし、知りませんっ!!」
チャームの言葉を聞いて恥ずかしそうにうつむく私を見たメリナは、何かを察したかのように「ああ」と言うと、
「ローニャ様。蝋燭を使ってお楽しみになられるのは構いませんが、どうぞ、あまりお汚しになられませんように。また失禁なされると替えの布団がございませんので・・・。」と言った。
「わ、私そんなことしませんっ!!」
あらぬ疑いをかけられて必死に狼狽える私にチャームは命令を下す。
(ローニャ。赤い宝石を銀の鎖で結んで首飾りを作りなさい。
神の后の貴女が映えるようにね。)
ここまではチャームが予定した通りに事が進んでいる。私は打ち合わせ通りに「は、はいぃっ!!」と従順な姿勢を見せた。そして赤い宝石をオタオタとした手つきで銀の鎖で結びつける。
(ああんっ!! もう、鈍くさい子っ! チャっと済ませなさいよっ!!)
「ご、ごめんなさい~~~っ」
敢えて鈍くさくすることでメリナの警戒心を解くことが目的だったけど、これ、結構ハードル高くない? 普通に難しくて泣きそうなんですけど・・・。
しかし、この姿はメリナを安心させたようで彼女は「クスっ」と可愛らしく笑うのだった。
チャーム続けてメリナに話す。
(次からは急ぎの用以外は指示を紙に書いてフェリックスに渡すことにするわ。貴女の部下の端女たちが用意するでしょう。
貴女は貴女の任務に注力しなさい。)
メリナは一度は全て自分が行うと断ったが、端女にさせるのは小事だけだと言われたらチャームの配慮を無下にもできずに従うしかなかった。だが、これもチャームの狙いだった。