訣別の時 3
魔神シトリーの言葉に私の心は再び恐怖に支配され、「ヒィッ!!」と悲鳴を上げてしまう。彼の恐怖から逃れることは出来ないのに、私は頭を抱えてうずくまり、泣きながら許しを請う。
「お・・・お許しください。お許しくださいっ!!
やめて・・・もうこれ以上、酷いことしないでぇ~・・・」
ヒックヒックとしゃくりを上げて泣きだしてしまった私。
そんな私にチャームが発破をかける。
(恐れないでっ!! 全てはお父様の幻覚よっ!
お父様はここにはいないっ! 強い心で立ち向かえば、この幻術を解くことができるわっ!
思い出して、ローニャっ!
貴女はかつて仲間とともにお父様を打ち倒した英雄なのよっ!
その死んでしまった仲間たちの名誉のためにもっ!!
絶対に負けないでっ!!)
・・・・・・死んでしまった仲間の名誉のため。
その言葉を聞いて私の脳裏に、かつて一緒に戦った仲間の姿が思い起こされる・・・
「ふざけないでっ!!」
彼らの姿が私の心に再び戦士の魂が、炎が宿った。
「舐めるなっ! 魔神シトリーっ!!
私はお前になどには屈っしないっ!!
次に再臨するというのなら、その時は再び倒してお前を異界に送り返すまでだっ!!」
私がそう叫ぶと魔神シトリーの幻術は解け、私は眠りから目覚めるのだった。
私は夢を見た。
私は悪夢を見た。
そして、それは未来予知の夢だったのかもしれない・・・。
しかし、目覚めたときの私はそんなことを気にする余裕などなかった。
涙と汗。体中から液体が溢れ出て全身がしっとりと濡れていた・・・。
恐怖と快楽の地獄に落とされた私は夢を見たまま失禁し、そのせいでベッドまでぐっしょりと濡れていた。
「・・・あ・・・ああ・・・・・・ああああああっ!!」
目覚めた私の心に再び恐怖が蘇ってきた。
私が何よりも恐れていたのは、シトリーの拷問による痛みのせいではない。
私は本当は求めていた・・・。
彼に脅され、痛めつけられ、恐怖したというのに、本心では、その後に与えられる快楽を「もっと、もっと」と求めていた。
それはあの夢の中ではわからなかったこと。自分自身でも気が付かなかったこと。
夢から目覚めて自分の体の異変に気が付いたのだ。その滾り切った我が身の高揚から、私はシトリーに屈服していたことを悟らずにはいられなかった・・・。
私は自分を恥じて頭を抱えて泣きじゃくる。
(恥ずかしいっ!! もう死んでしまいたいっ!!
何が、英雄よっ!!
何が死んでいった仲間の名誉よっ!!
私は・・・私なんか爛れた色欲のケダモノじゃないっ!!)
発狂してしまいそうなほどの自責の念が私を襲ったが、それを救ってくれたのはチャームだった。
(ママっ! 聞いてっ!!
恥ずかしがることは無いわ。
お父様は貴女の脳に直接影響を与えたの。
それは貴女の自我を塗り替えてしまうほどの強烈な魔術。
貴女が無様に怯えたのも、貴女がお父様に屈服しかけたのも、お父様が貴女の精神を書き換えにかかったからよ!)
チャームは夢の中の私に何が起こったのか語ってくれた。