闇の戦巫女 15
チャームは私に周りにそれと知られないように情報を与えてくれた。
それはメリナの力がハイエルフとしての実力だけでなく、魔神シトリーの恩恵を受けて強化されたものであること。
(厄介ね。
チャームの呪いを跳ね返す鎧以外にも彼女には何か能力があると思うべきね・・・。
まったく、ハイエルフと言うだけでも強敵なのに、その上、魔神の加護まで受けているなんて・・・。
これじゃ、下手に動いたら痛い目に合うだけだわ。
・・・お願い。アルバート。私の事が可愛いなら、すぐに助けに来てっ!!)
自分の置かれた環境を理解した私は天にすがる思いでアルバートを思って祈った。
(ああ・・・愛しいアルバート。今どうしているの?
貴方の美しい金色のストレートの髪が、
貴方の白い肌によく映える垂れ目がちな緑の眼が、
貴方の気品あふれる甘い声が、
貴方の逞しい体が恋しいわ。
今すぐ、この危険な場所から私を助け出しに来て。
私の王子様・・・アルバート・・・)
彼を思い出すと胸が締め付けられるように切なくなる。彼が今ここにいて私を大丈夫だよと優しく囁いて抱きしめてくれないのが悲しい。
彼が恋しくてたまらない・・・。
アルバートを想って意気消沈してしまい大人しくなった私を見て、メリナは私が観念したと思ったのだろうか? 私への警戒を解き、一礼して警備に戻ると言い出した。
「ローニャ様。それでは私は警備に戻ります。
どうぞ引き続きお食事をお楽しみください。
何か私に御用がございましたら、なんなりとフェリックスにお申し付けください。」
「・・・わかりました。メリナ、しっかり頼みます。」
メリナは私の言葉に深々と一礼してから神殿を去った。
強敵が私の前を去るのはいいけれど、腕利きの斥候や新兵が抵抗することなく殺してしまう彼女の実力が冒険者たちに向けられることを考えるとゾッとした。
「ローニャ様。お気になさらずにお食事をお続けくださいませ。」
メリナの脅威が冒険者に向けられることを思い悩んだ私の食事の手が止まったことを気にしたフェリックスが声をかけてくれた。
その声からは私に対する確かな敬意が感じられた。どうやら彼は私をお飾りの王妃とは思っていないらしい。メリナの言う通り彼の忠誠心は信用できるらしい。
だから私は彼から情報を仕入れることにした。
「ねぇ、フェリックス。
ここには200人ぐらいのオークがいると思うのだけれども、大丈夫なのかしら?
私が光の勢力に掴まった時、闇の戦巫女として切り刻まれないか心配なの。」
私が不安そうな声で尋ねると、フェリックスは笑って答えた。
「大丈夫です。この神殿には抜け道がございますからな。
あの神官騎士は確かに化物ですが、ここまでの道は一方通行の小路。数で塞げばあの者達が我らに追いつくことなど不可能です。逃げ算段は十分なのです。」
「逃げ道・・・。ですが、それでは多くのオークが犠牲になります。」
きっとオークたちは捨て身で私を守るつもりなのだろう。敵とはいえ私のために命を捨てる者達の事を考えると私の心は痛んだ。