恋多き女・ローニャ
「私の言葉と願いをどうか聞いておくれ・・・可愛いローニャ。
君は、この世界にいるどんな女性よりも美しい女性だ。
君の瞳は美しい。勝ち気な赤い瞳に少女のか弱さが秘められている。
君の肌はどんな絹よりも滑らかで心地よく、私はその感触に抗えない。」
美しい貴族の青年はそう言いながら震える俺の肌を舐めるようになぞりながら下から上へと上がっていく。
「あんっ。ダメよ。・・・ダメぇ・・・」
腕で彼の体を押し戻すような素振りだけの小さな抵抗を見せつつも俺の体は彼の力には抗えない。俺の体はそういう風に作り変えられてしまったからだ。
「そして、君の唇の誘惑に私は抗えない。
どうか美しい戦士の姫巫女よ。私の唇から逃れないで・・・」
彼の男らしい掌が俺の頬まで登った時、俺は瞳を閉じて彼の口づけを受け入れた。
そして、彼の唇に身も心も蕩かされて、彼になされるがまま彼のすべてを受け入れるしかない。
彼の誘惑に抗うことなど出来ようもない。俺はそういう風に作り変えられてしまったのだ。
そんな俺の魂に呪いが直接語りかけてくる。
(そんな甘ったれた声を上げちゃって!
恥ずかしくないのぉ? 元・男のくせに・・・)
(ああっ!! や、やめてっ・・・言わないで・・・)
呪いに体を支配された俺は恥ずかしさに死にそうになって音を上げる。
俺の体に取り付く呪い。それはかつて討伐した色欲を司る魔神シトリーの死に際の呪い。その強力な恨みの力によって俺は精悍な男から、男性を誘惑する女体へと作り変えられてしまったのだ。
太陽の光が及ばないところにいると、俺はこの呪いに体だけでなく心まで支配されて完全に身も心も女になってしまう。
こんな呪いを解きたくて各地を放浪して解呪の方法を探すのだが、冒険のゆく先々で呪いに支配されてしまい、様々な男達に愛され数々の恋愛スキャンダルを起こして翌朝には正気を取り戻して風のように男の前から去る。
そうやって数年過ごす間に噂を聞いた人々が俺につけた通り名は「恋多き女」「あばずれローニャ」だった。