ゲーム下手な彼女はつまらない? VRゲームの世界で最強になった私を見て、後悔してね?
『ぶっちゃけ一奈ってさー……ゲーム超下手なんだけど。俺の足引っ張ってるって自覚ある? なんでそんな楽しそうに笑ってられんの? もっと責任感じた方いいと思うけど』
『彼女なんだから、彼氏を満足させようとは思わないの? 顔だけ良くたって、性格がこんなんじゃねぇ……今までどうやって生きてきたの?(笑) お色気攻撃とか?(笑)』
『俺の友達の彼女なんて、毎日一緒にゲームしてるってよ。それに比べて……お前は俺の優しさに甘えてばっかだよな。コントローラー持ってる手なんて100歳のばばぁじゃん(笑) だいたいさぁ––––(以下略)』
「うるせぇぇぇぇーーーー!!!!」
おっと思わず叫んでしまった。
まぁ自分の部屋だしセーフか。アウトなのは、深夜12時まであと5分というこの時間だけ。
お察しの通り、私には彼氏がいた。それはもう、クソでクソでクソなクソ彼氏だった。
しかもむかつくのが、今みたいな自分勝手な理屈を押し付けて私を振ったってとこ。
何で私があんな自己中に散々言われて捨てられなきゃいけないの? ゲーム上手くないっていうのは、人格否定されるくらいダメなことなの?
と、1週間も前のことなのに今日もこうして思い出しては、はらわたを煮え繰り返しているのだ。
「……けど、それも今日でおしまい!」
これから夜更かしをするためのエナジードリンクをガブッと一飲み。
気を引き締めて、VR対応のヘルメットとグローブを身につける。
あいつの好きだったゲームなんてもうしたくなかったけど、つい最近気が変わった。
このまま言われっぱなしだと、私の気が済まない。そんなにゲームの腕が全てだって言うなら、見せてやる。
この新作VRMMORPGの世界で、私の腕前を!!
「……」
……MMOってなんだろ? メガ盛りおこわ? パッケージに書いてたけど、よく分かんない。
……まぁそんなことはどうでも良くて、すごいのこのゲーム!
専用の機器を身につけることで、あたかもゲームの世界にいるような体験ができるみたい!
まぁこれもやろうと思った理由の一つなんだけど、メインは他にあって。
実は今からやるゲームは続編で、前作をあいつもやってたんだよね。ってことは、新たにVR対応した続編をあいつがプレイしないわけない。
私の実力を見せつけるには、打ってつけのゲームってわけ!
もうそれだけでこのゲームは名作だと思う。
その名作が、今日––––正確には、深夜12時に解禁される。つまり––––
「あ、起動した!」
今、ということだ。
◆◇◆◇
ブゥゥンという起動音と共に、私の視界は真っ白になった。というより、真っ白な世界に来た感じ。
「ここは……? あ、なんかいる」
そしてそこで、ぴょんぴょん跳ねる"なにか"を見つけた。
「"なんか"とは失礼けろ! 僕ちんは『すこぶる! パワフルマジック・オンライン』のマスコット、ケリッツけろよ!」
ぴょんぴょん近づいてきたそれは、キモカワ系両生類。ようするにカエル。
「なんでカエルがこんな所に?」
「パワマジの世界に行く前の案内をするためけろ。次カエルって言ったらぶっ飛ばすけろ」
こわっ! 最近のゲームって出だしから脅迫してくるの? カエルのくせに!
「今、カエルのくせに! って思ったけろ?」
「思ってないです。ごめんなさい」
こわぁ……最近のゲームって心も読んでくるの? カエルの––––あっ。
「まぁいいけろ。それより、さっさと案内を済ませてやるけろ」
そう言えば、そんなこと言ってたっけ。他のインパクト強すぎて忘れてた。
「まず、お前の名前を教えるけろ」
「佐渡一奈」
「じゃなくて、パワマジの世界での名前けろ」
あ、もしかしてユーザーネームってやつかな。
やばい。特に何にも考えてなかった……うーん……
「じゃあ、イツナで。カタカナの」
何の捻りもないけど、ゲームなんてほとんどやったことないし、ユーザーネーム考えるだけで朝になりそうだから考えることをやめた。
「了解だけろ〜! じゃあイツナ、次にパワマジの世界での職業を決めるけろ」
カエルがそう告げた直後。私の前に、ぼんやりと淡い光を放つボードが浮かび上がった。
「おぉ……!!」
すごい。本当に目の前にあるみたい。しかも触れる!? すごいすごい!
「下にスワイプしていくと、いろんな職業が出てくるけろ。好きなのを選ぶけろ!」
ほんとだ。うわ、こんなにいっぱいあるんだ。
カエルに言われた通りにスワイプしていくと、ざっと見ただけでも10数種の職業があった。
剣士、魔法使い、アーチャー……鍛治師なんてのもあるんだ。
名前の部分をタップすると、実際のプレイ画像も出てきた。
うーん。悩む。多分これ、結構大事な選択だよね。
剣で戦うのは現実じゃ絶対できない新鮮さがあるし、グローブで直接殴って戦うのも爽快感がありそう。
いや待って。でもそれだと、あいつの顔も近くで見ることになるんじゃ?
……それは絶対嫌。あいつの顔なんて極力見たくない。
だったら––––
「魔法使い! 魔法使いになってみたいかも!」
プレイ動画をみてピンと来た。火の玉を飛ばしたりして遠距離から攻撃できるのは良さそう。
アーチャーとも迷ったけど、魔法なんて現実じゃ絶対使えないから、試してみたい!
「了解だけろ〜! これで全ての設定を終えたけろ。パワマジの世界は、何をするもどう戦うも全てが自由けろ。自分なりの楽しみ方を見つけて、広大なフィールドを行き尽くすけろ!」
より一層高く飛び跳ねたカエルは、そのまま真っ白な世界に吸い込まれるように消えて行った。
その直後、真っ白だった世界が眩い光で満ちていった。
咄嗟に目を瞑って数秒後。恐る恐る目を開けると、そこには見渡す限りの大草原が広がっていた。
◆◇◆◇
「草原……? きれい……!」
さらさらと風のそよめく音が耳をくすぐり、大自然の中にいるかのような澄んだ空気が鼻先をかすめていく。
試しにしゃがんで、足元で揺れる草に触れてみる。
「おぉ……!」
すると、ちゃんと指先がくすぐられる感覚がした。
そのまま、仰向けに体を投げ出してみる。
「おぉ……!!」
今度は、柔らかな草の感触と、その下で草を支える硬い土の感触もした。
なにこれすごい。体も自由に動くし、別世界に来たのと何も変わらない。
変わったのは、ちょっと見窄らしい服を着ているのと、木でできた簡素な杖が手元にあるくらいかな。
ん? っていうか––––
「見た目も変わってない!? 私だ!」
体が自由に動くってことは、つまりそういうこと。まんま自分の顔と体だった。
これがVR対応したゲーム……まさにゲームの世界に入り込むって感じだ。
「……っと。楽しいけど、まず何をすればいいんだろう?」
ずっとこのまま草原のど真ん中で寝転がっていたいけど、私には最強になるという使命がある。
起き上がって辺りを見回すと、私の他にも大勢のプレイヤーがいた。
「んー……みんな何やってるんだろう」
剣を持っている人も、杖を持っている人もいるけど、みんな空中で指を動かしている。
「こう……? あっ」
みんなに倣って指を下に動かしてみると、さっきのボードみたいなのが出てきた。
イツナ 魔法使い
LV.1
HP 32/32 TP 24/24
【STR 0】
【VIT 0(+4)】
【INT 0(+6)】
【DEX 0】
【AGI 0】
スキル
【ファイア】【ウォーター】
装備
頭 【なし】
体 【魔法使いのローブ(上半身)】
右手 【魔法使いの杖】
左手 【魔法使いの杖】
足 【魔法使いのローブ(下半身)】
アクセサリー 【なし】
「ステータス……? んん?」
ちんぷんかんぷんだ。アルファベットだらけでさっぱり分からない。
あ、でもマニュアルがあるみたい。一通り読んでおこうかな。
画面端にあったマニュアルボタンをタップして、それぞれの意味を調べることにした。
◆◇◆◇
「なるほどなるほど。TPは、スキルを使うのに必要なポイントのことで、STRは力、VITは防御力、INTは知力、DEXは器用さ、AGIは速度か。私は魔法使いだから、INTが攻撃力ってことになるのかな」
マニュアルは結構丁寧で、ゲーム初心者の私でもある程度理解できた。
ステータスの横にあるカッコの中の数字が、装備品の能力値。
ステータスは、これからレベルを上げて手に入るSPっていうのを使えば、自由に上げれるみたい。
となると、やっぱり一度戦ってみたいなー。
でもみんな、近くにある街に向かって行ってるんだよね。多分、装備とかアイテムとかを揃えられるんだと思うけど……
「……でも多分、あいつもいる」
自称ゲーマーのことだから、みんなと同じように動いてるに違いない。見た目もそのまんまだし、今街を歩けばすぐバレる。
こんな初期装備のままあいつの前に行ったら、どうせまたバカにされる。
せっかく楽しそうなゲームだと思ってるのに、全部台無しにされる。
そんなのは絶対嫌だ。とすれば––––
「……行っちゃおうかな。あの森」
私は、少し離れた所にある、草原よりもより一層草木の生い茂る森に目をつけた。
◆◇◆◇
「すごい……草をかき分ける音とかもリアルだ」
女佐渡一奈。絶対今来るべきじゃない森林に単身で挑む。
「……うわぁ」
そして見つけてしまった。
めっちゃ強そうなクマを。えっ、なんかすごい雄叫びあげてるんだけど。むりむりむり。絶対勝てない。
咄嗟に太い大木の影に隠れて様子を見てみる。
片目には深くえぐれた大きな傷を負い、鋭い牙をその口から覗かせる。
下手したら3メートルはあるんじゃないかという屈強な体躯を左右に揺らしながら、大地を強く踏みつけている。
「––––ひっ!?」
と、クマのいるのとは別の方向––––私の背後からパキパキと小枝の割れる音がした。
「––––っ!!」
振り向くと、クマほどではないにしろ、明らかに大きなヒルがいた。
やばいやばいやばい……!! 囲まれてる……!? いや、元々いた所に私が勝手に入り込んだのか……? とにかくこのままじゃ死んじゃう!!
私が狼狽えている間にも、巨大ヒルはヌルヌルと土の上を這ってくる。
なにか、攻撃できるもの……!
「……スキル!」
確か最初に覚えてるスキルがいくつかあったはず!! 使い方ももう、マニュアルで確認してる。
杖を握る手に力を入れ、ヒルに向けて構える。
「【ファイア】!!」
そう口にした直後、小さな火の玉がヒルめがけて発射された。
近距離で発生させた魔法は、そのままヒルの胴体に直撃した。
けど––––
「え、効いてない。全然効いてない。ちょっ、こっち来ないで!?」
ヒルを倒すどころか、一切怯んだ様子もなく、ヌルヌル動いてくる。
かと思ったら、あの強そうなクマもいつの間にか私の方を睨みつけてる。
「えぇ!? うっそ!?」
大声で魔法唱えたから!? 魔法が効かないんじゃ、もう……!!
『一奈ってさぁ、まじでゲーム下手だよな。必ずすぐ死ぬ(笑) やる気あんの?』
「……っ!!」
たかがゲーム。一度負けたって、いくらでもやり直せる。
でも今ここで諦めたら、あいつの言ってることが本当のことになっちゃう。
「……あるに決まってんじゃん。やる気!!」
近づいてくるクマとヒルから距離を取るために、大木を背に走り出す。
私の最大TPは24。さっき【ファイア】を使ったから、残りは20。【ファイア】はあと5回打てる。
【AGI 0】の私に、野生のクマが追いつせないわけもなく。もうすぐそこまで迫ってきていた。
私は意を決して、杖を構える。
「【ファイア】! 【ファイア】! 【ファイア】! 【ファイア】! 【ファイア】ーー!!」
私の放った火の玉は、全部クマの頭上をすり抜けていく。
失敗……じゃない。私が狙ったのは、最初から怖そうなクマじゃない。
グルルルッ……と唸りをあげるクマの向こうで、小さな火は、周りの大木や草を中心に大きな火となっていく。
すると、ミシミシと大きな音を立てて、大木が倒れ出す。
「よし!」
狙い通り!
大木は、その直線上にいるクマの頭に、一際大きな音を立てて倒れ込んだ。
「グォォォォッ!?」
あ、なんか効いてるっぽい。すんごい痛そう。
とか思ってるうちに、辺り一面に燃え移った火は、周りの木々を次から次へと倒していく。
「グォォォォ!! グォォォォォォ……!!」
ずしんずしんと鳴り止まない音と共に、クマの姿が見えなくなっていく。
決着だ。
「ん? あれ?」
火が全然治らないんだけど。なんかもう、私の目の前まで……あっつ!
「まずいまずい! はやくここから出なきゃ!!」
モンスターを倒すところまでしか考えてなかった。まさか戦闘が終わっても、燃え続けるなんて……! これは予想外だよ!!
怖そうなクマに追いかけられるのも怖かったけど、これはもっと怖いかも。
【AGI 0】の体に鞭打って、さっき以上に全力で足を動かしてなんとか出口を目指した。
◆◇◆◇
はぁ……はぁ……! つ、疲れた……!」
走ること数分。迫り来る火の手からはなんとか逃げ切れたみたい。
でもまだ、私の後ろではパチパチと音を立てながら森は燃えている。
どうしよう……生態系の破壊とかで罪に問われたりするのかな……? え、大丈夫だよね?
「あれ?」
息を整えて顔を上げると、出した覚えのないボードが目の前にあった。
レベルが上がりました。
【LV:1 → LV:10】(獲得SP:90)
スキルを獲得しました。
俊殺の狩人【パッシブ】
戦闘開始から10分間、すべてのステータスが1.5倍になる。
入手条件:フォレストグリズリーを10分以内に撃破する。
殲滅家【パッシブ】
敵を倒すたび、使用スキルの効果が20%アップする。(MAX:100% 戦闘が終了するとリセットされる)
入手条件:一度に100体以上の敵を倒す。
スキルアップ【アクティブ】
任意のスキルの効果をその戦闘中のみ2倍にする。(一度の戦闘で1回のみ使用可能)
TP:12
入手条件:一種類のスキルのみでボスモンスターを撃破。
火炎球【アクティブ】
少し大きめの火の玉を作り出す呪文。
威力:15 TP:10
入手条件:スキル【ファイア】を使って敵を100体撃破する。
「わっ、こんなにいっぱい!? てか100体も倒してたの!? あ、森全部焼き払ったから……」
背中が熱いから、多分まだ燃えてる。見ないようにしよう。
その代わりにスキルを見てみると、どれもかなり強そうだ。
たしか、パッシブスキルは常に発動するやつだから……私はこれから、戦闘中は敵を倒すたびに強くなれるし、開始10分はもっと強くなれるわけだ。
「なんかすごいことになっちゃった……レベルも一気に10まで上がったし。ポイント、どうやって振り分けよう……?」
そんなことを考えている間にも、私の後ろではパチパチと音が鳴ってる。
「…………」
パチパチ……バキバキバキ……ドシーン。
「……一旦、帰ろう」
逃げるんじゃないよ? もう夜も遅いから、明日に備えて一旦帰ろうって話だから。
というわけで、私はステータス画面を閉じて、ログアウトボタンまでゆっくりと指を動かしました。
◆◇◆◇
『すこぶる! パワフルマジック・オンライン』掲示板
46:名無しのアーチャー
急募。始まりの街近くの森が消滅した件について
47:名無しの大楯
サービス開始直後に燃えたあれか
48:名無しの剣士
心なしか煙臭かったし、炎もリアルだったな
49:名無しの鍛治師
いやそこじゃねぇだろw
50:名無しのアーチャー
ありゃ一体何だったんだ? プレイヤーがやったのか?
51:名無しの大楯
まさか。サービス開始から1時間くらいしか経ってないんだぞ? 森一つ消滅させられるやつなんているわけないだろ
52:名無しの剣士
じゃあ運営側の仕業ってことか?
53:名無しの鍛治師
その説は濃厚だな。だがわざわざ作った森をサービス開始直後に無くす理由が分からん
54:名無しのアーチャー
それな。世界観の演出か? それかプレイヤーに何か伝えるためとか
55:名無しの大楯
じゃああれだ。魔王の誕生
56:名無しの剣士
ありそうw
57:名無しの鍛治師
また何か動きがあるかもしれないし、とりあえず様子見だな
58:名無しのアーチャー
らじゃー
59:名無しの大楯
らじゃー
60:名無しの剣士
らじゃー
最後まで読んでくれてありがとうございます!!
久々の投稿……次回作は何にしようか、まだ決めあぐねてる優柔不断作者です。お久しぶりです。
今回は、前作学園ラブコメから一転、VRゲームを舞台にしてみました。
復讐を目指すイツナの成長と、テンポのいいキャラクターとのやり取りを描こうかと考えています。
この物語は短編ですが、連載版も考えていますので、感想や評価をもらえると嬉しいです!!
ではまた次回!!