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ゆかり
「貴女は、可哀想ね」
彼の発した唐突な言葉に、私は顔を上げた。
夕方の病室。昼間は服で、夜はパジャマで。なんて、リハビリ病棟ではよくあるルールを守るために、私は彼の足下でしゃがみこんでいた。右足からズボンを抜いて、病衣を履かせたところだった。
「なんで?」
思わず問いかけると、彼は、私が先ほど無理矢理着替えさせた上の病衣の襟口を弄びながら、どこか夢見勝ちな瞳を私に向けた。
「ゆかりがそう言ってるから」
「ゆかり?」
「この中にいるでしょ……女の子」
瞳の熱量はそのままに、口角を上げた彼の視線は私を素通りして背後の床頭台に向けられている。
私が抱えていない方の足が、『ここだ』と言わんばかり保冷庫の扉を蹴った。恐る恐る引き開けて見るが、中にはもちろんなにもない。再び彼を伺うと、その視線はベッドの上に向けられていた。嫌な予感に、背筋が粟立つ。
「出てきちゃったの……そう。ゆかり、今度はそこにいるよ」
そう言って、彼は長い腕をゆるりとベッドに伸ばした。