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君に待つ花言葉  作者: 夜月 真
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6月6日

この日はこの小説の中で大切な回になります。

日常的で面白味が少ない回ですが、最後まで読み、この日に出てくる一部の意味を理解すると

驚いてくださると思います。


6月6日


 夢から覚めると、カーテンの隙間から差し込む光が僕を起こした。

上半身を起こし、重力に逆らって体を伸ばし、血が体を巡るのがわかった。

「5:31かぁ……」

 昨日の夜、何時に寝たかあまり覚えていなかったが、かなり寝ただろう。

 少しだけ体と頭が痛む。重い体とふらつく足取りで部屋を出た。

 左手で壁をつたいながら階段を降りると、誰も起きていなかった。

 洗面所で顔を洗った後に、テレビの電源を付けると同時に階段から足音が聞こえた。


「おはよほぉ……いつも早いねぇ」

 振り向くとあくびをしながらボサボサの頭を指先でとかしている美月が立っていた。

「散歩してくるね」

 僕はリモコンをテーブルに置いて、美月から逃げるように部屋に戻った。

 運動着へ着替え、玄関の扉を開けると、朝日が街を襲っていた。

 寝起きの僕にとっては眩しかった。

 頭の中を空っぽにして、少し歩いたところに、近所のマンションの植木にツツジの花が咲いていた。


 ツツジはいつまで咲き続けてくれるだろうか。

 日差しにも慣れてきたが、運動をすると体も熱くなり、パーカーの袖を捲った。

「この格好は少し暑かったな……」

 じんわりと汗をかき始め、今日は早めに帰ろうと思い、自然に家へと体を運んでいた。

 スーツ姿の社会人がちらほらと現れ始めた。

 十数分歩いて家に戻った。

 扉を開けると家の中はひんやりとしていて、大きく息を吸った。

 僕は風呂場に直行し、ベタベタした肌をシャワーで流した。

 バスタオルで水滴を拭き取り、またパジャマに着替えてドライヤーで髪を乾かしていると、脱衣所のドアをノックする音が聞こえた。

 ドライヤーを止め、扉を開けると驚いた顔をした愛花が立っていた。


「わっ! びっくりしたぁ……!」

「どうした?」

 歯磨きに来たと言い、脱衣所に入る愛花の横で再びドライヤーの電源を付けた。

 うるさいくらいのドライヤーの音だけが耳に入る。

 髪が乾き、部屋に戻ろうとすると愛花が歯ブラシを突っ込んだ口で何かを離し始めた。

「ほういへは、こほはへのははわはっは?」

「……え? なんて?」

 全く何を言っているのかわからず、ふふっと笑いだしてしまった。


「ほういへは、こほはへのははわはっは?」

「いや同じこと言われてもわからないよ」

 歯磨きが終わったら部屋に来るようにだけ伝え、僕は部屋に戻った。

 先日読み始めた小説をしおりを挟んだところから読み始めた。

 読み始めてすぐに愛花がガチャっと音を立てて入ってきた。

「そういえばこの前の花の事わかった?」

「……あ、忘れてた。最近忙しかったから……」

「私も急に思い出したの」

「大体、どこでそんな花知ったの?」

「あっちの上り方面に4駅行ったところにあるカフェ」

 僕は直感でカフェの方に指先を向けた。


「へー、カフェかぁ……そういえば土曜日、ショッピングモール連れてってよ」

「いつもの?」

「うん、そう!」

「わかった。空けておくよ」

 そう言った途端、愛花は時計を見ると焦った様子で部屋を出ていった。

 時計を見ると、丁度6:30だった。

 僕は椅子に座り、小説の続きを読んだ。

 1時間余りで、読み終えた。

 感動などはあまりしなかった。出てきた数字を足し合わせると伏線回収になるという、ありきたりでつまらないものだったからだ。

 しかし言葉だけで物語の世界に誘い込むことができる小説家の能力に魅了された。

 本を机の上に置き、一階に下りた。

 何か食べ物はないかと野良猫のように冷蔵庫を漁る。

 冷蔵庫から引っ張り出したパンを片手に、朝の天気予報を見ていると化粧を終えた母が僕に話しかけた。


「じゃあ行ってくるからね、ちゃんと時間見て学校行くんだよ」

「うん、大丈夫、行ってらっしゃい」

 母は僕の高校の近くの倉庫でパートをしている。

 大変だと話は聞くが、なんだかんだ楽しく仕事をしているそうだ。

 パンを食べ終え、歯を磨き、制服に着替えると家を出る時間となっていた。

 玄関の扉を開け、鍵をかけ、自転車に跨った。

 学校へ着くと、またいつものつまらない日常が始まった。

 鐘の音とともに朝のホームルームが始まり、それが終わると授業が始まっていく。

 勉強は嫌いなわけじゃない。けれど、学校の授業となるとどこか惹かれない。

 前から3番目、1番窓際の席で僕はただひたすらに外を眺める。

 僕は頬杖をついて、ひたすらに空の機嫌を伺っていた。


 一週間、そんな毎日だった。雨が降り続く日もあれば、曇天が空を隠しているだけの日もあった。

 授業は一応聞いてはいた。ノートは大雑把で大事そうな部分だけメモを取る程度だった。

 けれどテストの点で極端に困ったことは無かった。受検というものが面倒くさく、レベルを下げて入学したのが間違っていたのだと、1年生の5月頃に気づいた。

 特別秀才のように高得点というわけではなかったが、中の上くらいにはいつもいた。

 こんな日常、いつまで続くのだろう。そんなことを毎日のように考えていた。

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