97話 ユージンとスミレは、クラス替えする
「ねぇ、ゆーくん。英雄科専用の授業ってないの?」
と聞いてくるのは俺と一緒にクラス替えになったスミレだ。
最近、俺への呼び方が『ユージンくん』→『ゆーくん』に変わった。
なんで? と聞いたら「別にー、なんとなく」と言われた。
何か意図がありそうだが……。
「スミレちゃん。英雄科のみんなは個々の能力が全然違うから共通の授業はないの。聖女候補の私と炎の神人族のスミレちゃんだと必要な技能は全然違うでしょ」
俺の代わりに答えてくれたのはサラだった。
英雄科であるサラとも当然同じクラスメイトということになる。
「なるほどー、そうなんだ。じゃあ、私は何の授業に出ればいいのかな?」
「これまで通りでいいと思うよ。火魔法を中心に基本魔法の講座全般。俺は上級結界術の講座と上級回復術講座。あとは魔法剣関連の授業を適当に受けるから」
と、俺は答えた。
「えー、じゃあ今までと変わらないんだね」
「だな」
俺とスミレは顔を見合わせる。
そう、英雄科にクラス替えをしたからといって俺とスミレに大きな生活の変化はなかった。
「私たちクラス替えする必要あったのかな?」
スミレの疑問は俺も感じた。
「ダメだぜ、スミレちゃん。魔王エリーニュスに続き、神獣ヒュドラを撃退した二人が普通科じゃ、学園内の選別が上手くいってないことになるからさ。特別な力を持ったやつは、特別な分類に属してないと」
明るい口調で言ってくるのは、同じく英雄科のクロード・パーシヴァル。
武術大会の怪我は完治したらしい。
「私はヒュドラとはほとんど戦ってないよ? クロードくん」
「ユージンの魔法剣は炎の神人族ちゃんの魔力が必須なんだろ? だからコンビで英雄科なんだろうさ。だろ? ユージン」
「多分そんなところだろうな」
直接ユーサー学園長に聞いたわけでは無いが。
あの人はクラス替えの事実を告げて、あとはさっさと別のところへ行ってしまった。
先の最終迷宮の神獣事件の対処に追われているんだろう。
現在、最終迷宮の1階層はヒュドラの毒と瘴気に汚染されていて一般人は立ち入り禁止のままだ。
「そっかぁ」
スミレは納得したように頷いた。
「ちょっと、ユージン? 聖女の魔力もユージンには必要なんですけど?」
「あ、あぁ、勿論わかってるよ」
サラが聖剣の柄で、背中をつついてきた。
まぁ、なんにせよ。
「これからよろしく頼むよ、サラ。クロード」
「よろしくねー、クロードくん。あとついでにサラちゃん」
「なんで私はついでなのよ!」
「今さらよろしく言う必要なくない? 毎日会ってるじゃん」
「それもそうね。別に会いたいわけじゃないけど」
「あれー? じゃあ、今日の夜は私とゆーくんの二人きりってことで……」
「誰がそんなこと言ったのよ! たまには遠慮しなさい!」
「それはそっちでしょー。毎日忙しい忙しいって言うのにゆーくんに会いに来るのはやめないし」
「当たり前でしょ。誰が泥棒猫と二人きりにさせるもんですか」
「にゃんですとー!!」
サラとスミレの言い争いが騒がしい。
そんな会話をしていると。
「ユージンくん、我々とも仲良くしてほしいな」
「そうそう、同じ帝国民同士なんだからさ」
「………………」
そう言って話しかけてくる者たちがいた。
一人無言のやつがいるが。
「えっと、あんたたちは……」
話すのは初めてだが、顔は知っている。
グランフレア帝国において名前が知られている連中だから。
帝国貴族にして、既に上級宮廷魔道士に席があるエレン・サンダーバード、
士官学校の先輩にして天才参謀と噂されていながら、そこを中退してリュケイオン魔法学園へ転校してきたアリス・シルバームーン。
帝国史上、最年少で黄金騎士になったアルドル・フロストウィンド。
ちなみに、帝国史上最年少で最高戦力の『天騎士』になったのが、幼馴染のアイリだ。
……幼馴染のほうがだいぶ、おかしいな。
俺は彼らと挨拶程度に会話した。
どうやらクラス替え当初から話しかけようとタイミングを測っていたらしい。
(人気者だね、ゆーくん)
こそっとスミレに耳打ちされる。
(というより派閥へのお誘いっぽいかな。もしくはカルディア聖国のサラや蒼海連邦のクロードと仲良くしているのが気に食わないのかもしれない)
(……そう聞くとなんか面倒だね)
(まったくだ)
リュケイオン魔法学園に入学した当初は、俺のことなど眼中になかったはずだが。
益があると悟ると近づいてくる。
実利主義な帝国民の鑑だ。
それ以外にもこっちに厳しい視線を向けてくるのは。
「まったくサラ様はどうしてあんな連中と……」
「しっ! 聞こえますよ」
「聞こえたっていいさ」
あまりこちらと仲良くしてくれなさそうな会話。
神聖騎士見習いのリリー・ホワイトウィンド。
同じく神聖騎士見習いのガレス・アイスソウル
次期枢機卿と言われているアリーナ・スターライト。
彼らはカルディア聖国、つまりサラの同郷だ。
主に生徒会執行部で活躍していたサラとは部隊は違えど、同じ聖国出身者ということでサラと臨時部隊を組むことも多かったようだ。
が、俺とサラが再び部隊を組むようになって彼らとは疎遠になってしまったらしい。
この敵意はそのためだろう。
あとは単純に、帝国が嫌いなだけか。
最後は、クロードと同じく蒼海連邦出身者のグループ。
もっとも蒼海連邦は、小国の集まりで一枚岩ではない。
人数は多いが、派閥という意味でのつながりは薄いと聞いている。
ドワーフ国の王子、ギデガン・シャドウブレイド。
獣人族の拳聖の息子、ソラン・ストームブレイカー。
次世代の弓の勇者候補、レオンハート・アークフェザー。
エルフの賢者見習い、フェリシア・ブライトスパーク。
俺が名前を把握しているのはそれくらいだろうか。
彼らともおいおい話す機会はあるだろう。
「なぁ、ユージン。一緒に訓練場に行こうぜ」
「そうだな、確かに身体を動かしたい」
時間が空いた俺は、クロードの誘いに乗った。
「私は次の魔法講座に行ってくるねー、ゆーくん」
「ああ、またあとで」
「ねぇ、スミレちゃん。それってテレシアさんと同じ授業でしょ? 私も行くわ」
「じゃー、一緒に行こうー」
さっきまで言い合いをしていたサラとスミレが仲良く連れ立って教室を出ている。
俺はクロードと訓練場へ向かった。
◇◇◇
「訓練ならこの木剣だな」
いつものように訓練用の武器を取る。
そしてゆったりと構えを取った時。
「あー、悪い、ユージン。実はひとつ頼みがあってさ」
クロードから待ったがかかった。
「頼み?」
「結界魔法を教えてほしいんだ。頼む!」
そんなお願いをされた。
「結界魔法? 急にどうしたんだ? 別に必要ないだろ」
今までは回復魔法や補助魔法には興味がなさそうだったのに。
それにクロードがわざわざ結界魔法を覚える意味がないように思った。
蒼海連邦の竜騎士かつ『勇者候補』であるクロードは、単独で行動するような機会はほぼない。
一緒に回復魔法使いや結界魔法を使える者は常に同行するはずだ。
「この前お前と戦った時の『龍神の槍』あれを使いこなせるようになりたくてさ」
「あぁ……あの呪われたやつか」
思い出した。
クロードの祖国である『竜の国』の宝具。
世界最大の大魔獣『暗黒竜グラシャ・ラボラス』の心臓のひとつを潰したと言われる龍神の槍。
その魔槍は、暗黒竜の血で呪われている。
威力は伝説のままだが、使ったもの身体を蝕んでいく。
「呪われた武器を利用し続けるのは、あんまりおすすめしないけどな。呪いを解く方法はないのか?」
「そっちの解析も進めてる。ユーサー王にも相談してるんだけど、大魔獣の生態や呪いは不明なことが多くて解呪は難しいらしい」
「学園長でも無理なら厳しいかもな。わかった。俺でいいなら結界魔法について教えるよ」
「助かる!! 持つべきは親友だな! この礼はまた今度な!」
クロードが俺の肩を叩いた。
その屈託ない笑顔をみつつ、思い出す。
入学当初に知り合いのいない中、俺と親しくしてくれたのは部隊が一緒だったサラを除けばクロードくらいだった。
英雄科のエリートであるにもかかわらず、体技訓練ではよく組んでくれた。
(むしろ俺のほうこそ、今までの恩を返さないと)
俺でできることなら喜んで協力しよう。
「ただ、俺の結界魔法は我流が多いからな? きちんと習うなら結界魔法の講座でも学んだほうがいいと思うぞ。リュケイオン魔法学園の魔法学はレベルが高いし」
俺の個人的な体質(天使)のせいで、個人結界魔法は癖がある。
それよりは人を教えるのに長けた学園の先生から習うほうが身につきやすいはずだ。
「ああ、俺もそう思って結界魔法の授業に出てみたんだが……」
「何か問題があったのか? みんな優秀な先生だと思うけどな」
結界魔法を専門にしている先生たちは俺も面識があるが、皆丁寧でわかりやすい授業をしてくれる。
「授業はよかったんだけど、クラスメイトが問題でさ……」
「嫌なやつがいたのか……?」
と言っても、英雄科で名のしれたクロードに絡んでくるやつなどいないと思うが。
「逆だよ……」
「ぎゃく?」
「結界魔法使いって女の子が多いだろ? 女の子からひっきりなしに告白されてさ。授業にならねぇんだ」
「そういう悩みか……贅沢なやつだ」
モテすぎるの大変だな。
「ユージンに言われたくはないけどな。まぁ、お前のところはサラちゃんとスミレちゃんが睨みをきかせてるから他の女は怖がって寄ってこないだろうし」
「別にあの二人が怖いってことは……」
いいかけて気づく。
最近は、ますます火魔法の威力が上がって『聖級』の威力の魔法も扱い始めた炎の神人族。
スミレや俺の訓練に付き合って、カルディア聖国の宝剣を巧みに使いこなしている次期聖女。
(敵には回したくないか……)
クロードの言うことが理解できた。
そんなことを考えている最中に、クロードは結界魔法の詠唱を終えていた。
「風の結界」
結界魔法が発動した。
もう覚えているのか。
「なぁ、ユージン。初級の結界魔法ってこんな感じでいいのか?」
魔法を発動させたクロードの周囲に青い結界が張られている。
俺はその結界を「コン、コン」と叩いてみる。
強度は悪くない。
が、衝撃の吸収性に欠ける。
強い攻撃相手だと脆そうだ。
「結界は硬度より抗張力や衝撃強度を高めて、それを複数の結界を重ねてるほうが効果的だ。そっちのほうが衝撃を吸収してくれる」
クロードが俺の結界に手を伸ばしてくる。
「おお! なんか見えない柔らかい鎧をユージンが着込んでいる感じだな。……多重結界って魔力の消費が激しくないか?」
「中級の結界魔法講義で教わった理論でさ。一枚の結界の強度を高めるより、使い捨ての結界を何枚も重ねがけして、壊されそうになったら外側の結界を破棄して、内側に結界を張りなおす。物理攻撃に強いのは勿論、呪いや瘴気にも対応できる。クロードの目的にも合致するだろ」
「なるほどな……結界魔法が得意な連中はそうやってるのか」
「結界の多重張りは基本だからな。まずはそこから訓練するのがいいと思う」
「ありがとな。ところでユージンは一日のうちどれくらい結界魔法を使ってるんだ?」
「基本ずっとだな」
「……寝てる時は?」
「結界魔法を維持したまま寝てる」
「うそだろ?」
「本当だ」
なかなか信じてもらえなかった。
魔王のいる封印の第七牢『禁忌』は、それができないと死ぬからな。
「今度方法を教えるよ」
「ちなみにどうやって学んだ?」
「我流」
「やっぱりか……」
それからしばらく、俺はクロードに結界魔法を教えつつ、剣の訓練にも付き合ってもらった。
訓練をしつつ、いつものように雑談する。
「ユージン、知ってるか? カルディア聖国では、大魔獣の『闇鳥ラウム』を討伐する計画が上がってるらしいぞ」
「知ってる、サラがぼやいてたな」
特に機密情報ではない。
神聖同盟の諸国に、具体的な協力要請もしているとか。
クロードの音速の突きが迫る。
それを避けながら、俺は剣を横薙ぎにする。
「おかげで蒼海連邦も一部の国が『人魚ウェパル』を討伐するって息巻いてて……勘弁してほしいぜ」
クロードが槍で俺の剣を止める。
すかさず反撃をしてくる。
「どうしたんだろうなー、急に大魔獣の討伐計画なんて」
俺はとぼけて言ってみた。
南の大陸に巣食う大魔獣、『闇鳥ラウム』と『人魚ウェパル』。
どちらも討伐するには被害が大きすぎるため、基本は傍観だったはずだ。
「おまえさぁ……、わかってるんだろーが!」
クロードの光速の突きが俺の髪をかすめた。
危なっ!
「帝国が『巨獣ハーゲンティ』を倒しちまったからな」
「おまえが、だろ!!」
なおも連撃が続く。
クロードの言う通り、カルディア聖国や蒼海連邦が急に大魔獣の討伐に乗り出しのは帝国が三体の大魔獣の一体を倒してしまったからだろう。
が、俺だけの力ではない。
「帝国の総力を挙げてだ! 弐天円鳴流・鎌鼬!」
クロードの連続攻撃に耐えかねて、俺は剣技で応戦した。
「おい、ずるいだろ、それは」
「技を使わんとは言ってない」
俺は距離をとり、いったん仕切り直した。
雑談も復活する。
「なぁ、ユージン」
「なんだ?」
「サラちゃんとスミレちゃんって、何であんなに仲がいいんだ?」
「……仲いいか?」
いつも口喧嘩ばかりしてるけど。
「いいだろ。普通はもっとギスギスするもんだぞ……うちみたいに」
「それは……大変だな」
クロードの恋人のレオナとテレシアさんはどちらも気が強く、クロードはしっかり尻に敷かれているらしい。
……いや、人のこと言えないか。
「今度、どうやってサラちゃんとスミレちゃんを乗りこなしてるのか教えてくれよ。酒のある席で」
「クロードに女の子の扱いを聞かれる日が来るとはな」
下世話な話をしつつ、訓練用の木剣と木槍で数合打ち合った時、
ジリリリリリリリリリリリリリリリ…………!!
警報が学園内に鳴り響いた。
「なんだ……?」
「このあと説明があるはず」
俺とクロードは訓練の手をとめ、口を閉じた。
――緊急園内放送です! 天頂の塔1階層に神獣が出現しました! 近くにいる探索者で、戦闘が可能な探索者は至急集まってください! 繰り返します……
緊張感のある迷宮職員の声。
それは新たな神獣の来襲を知らせるものだった。
■感想返し:
>ヒュドラ戦の後なのにヒロイン三人相手にしてるユージン凄いな。
→ユージンタフですね
>『神殺し』の属性が付与された武器の存在は、公にするとまずいのでしょうか。
→聖国にはまずいですね。












