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攻撃力ゼロから始める剣聖譚 ~幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に入学したら、魔王と契約することになった~  作者: 大崎 アイル
第四章 『学園祭』編

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71話 ユージンは、学園へ戻る

「じゃあな、ユージン。身体に気をつけろよ」

「ああ。行ってくるよ、親父」


 俺は迷宮都市へ戻るため、飛空船の停留所へやってきていた。


 普段は皇帝陛下のそばを離れることがない親父だが、今日は見送りにきてくれた。

 そして、親父以外にも来てくれた人たちがいる。


「ユージンくん。貴方から聞いた『例の話』は、私から皇帝陛下の耳へ入れておきます」

「恐れ入ります、エカテリーナ宰相閣下」

 俺は小さく頭を下げた。


 未来を映す宝具『アカーシャの鏡』で視たもの。




 ――帝国軍対、聖国と蒼海連邦との戦争の様子




 どちらが発端となったのかはわからない。

 だが、間違いなく南の大陸内で大きな戦争が起きていた。


 俺はその事実を帝の剣である親父と宰相閣下に報告をした。


「それにしても困りましたね……、まさか百年起動していなかった『アカーシャの鏡』がそんな未来を映すなんて」

 宰相閣下が悩ましいというふうに指を口元にあてる。


「まぁまぁ、エカテリーナ様。そういったことがないよう、帝国の英雄と我が国の次期聖女が結ばれるわけですから」

 ニコニコしているのは、聖国カルディアの聖女様であり運命の女神オリアンヌ様だ。


 ちなみに運命の女神様の予知でも、『戦争が起きる』可能性は高い、という話だった。

 この情報は国家機密らしいのだが……。


「ユージンくんは平和の架け橋というわけですか」

「近々大魔王が復活しますからね。これからも帝国と聖国は良き隣人でありましょう☆」

 笑顔以外の表情が無いかのような運命の巫女様からは、何も感情が読み取れない。


「地理的には遠いといえ、北の大陸を支配する魔王たちと復活する大魔王。それだけでなく南極大陸を縄張りとする世界最古の大魔獣『暗黒竜グラシャ・ラボラス』の姿を見かけたという噂もあります。北極大陸にある最終迷宮『奈落(アビス)』からは小規模な『魔物暴走(スタンピード)』が頻発しているという話ですし……、人間同士が争っている場合ではありませんね」


「ええ、まったく。よろしくお願いしますね、ユージンさん☆」

「は、はい。善処します」

 俺は運命の巫女様の言葉にあわてて頷いた。


(次期聖女であるサラを無下に扱うなという釘をさされた)

 もちろん、雑に扱う気などないが。


 その時、視線を感じた。


 実はさっきから気づいていた。


 大きな蒼い瞳が、じっとこちらを見つめる。


「ユウ……行っちゃうのね」

「アイリ、また戻ってくるよ」

 次期皇帝となった幼馴染。


 アイリには「最終迷宮・天頂の塔への挑戦を続ける」ことは伝えている。


 帝国でアイリを支えるという提案は魅力的だったが、スミレとの約束が先約だったから。


「絶対に私が呼んだら戻ってきて」

「ああ、わかってるよ」

 アイリの手が俺の腕を掴む。


 きらきら光っている美しい金髪がすぐ目の前にある。

 顔が近い。

 もう一歩前に出るとキスをしてしまいそうな……。



(ね、サラちゃん。あれってマズくない?)

(危険ね。行くわよ、スミレちゃん!)

(えっ!? ちょ、ちょっと)


 ヒソヒソ声と、こちらへ近づく足音が聞こえた。



「ユージン、そろそろ出発の時間よ」

 サラが声をかけてきた。

 アイリの表情が真顔になる。



「わかった、サラ。そろそろ行……」

「駄目よ、ユウ。もっといて」

 がしっ! とアイリの手が俺の腕を強く握った。

 なんなら肩にも手を置かれ、俺は動けなくなった。


 サラが困った顔でこっちを見つめる。

 アイリも腕を掴んだまま、視線を泳がせている。


(ど、どうする……?)

 俺が次の行動を迷っていると。


「あのー、アイリ皇女サマ? 私たちの飛空船の出発の時間なんですよー……」

 スミレがおずおずと割り込んでくる。


「…………」

 アイリが不服そうな顔をするが。

 しばらく迷ったような顔をして、俺の腕を離した。


「じゃあな、行ってくるよ」

「…………」

「アイリ?」

「うっさい! さっさと天頂の塔を攻略して戻ってきなさいよ!」

 バン! と肩を思いっきり叩かれた。


 避けることはできたが、避けなかった。

 おかげで痛い。



「若いっていいですねー」

「あまり気が多いのは感心せんが……」

「あら、お堅いですよジュウベエ様。英雄とは色を好みますから」

「むぅ……」

 宰相閣下と親父の雑談が耳に痛い。


 俺を睨む幼馴染に手を振り、俺は迷宮都市へ向かう飛空船に乗り込んだ。




 ◇




「わー、高いー! 気持ちいー!」

「帝国の飛空船も乗り心地は悪くないわね」

 スミレは行きと同じくはしゃいでいる。

 サラはそれより落ち着いているが、テンションは高い。


「二人とも食堂にでもいかないか?」

 あまり騒いでいるとまた注意されるかもしれないと思ったので、俺は食事に誘った。


「いいよー、行こうー!」

「そうね。混む前に行きましょう」

 賛同を得られ、俺たちは飛空船の大食堂へ向かった。




 ◇




 中途半端な時間だったので、食堂は空いていた。


 俺はパンと分厚いステーキを。

 スミレはベーコンとトマトを炒めたパスタ。

 サラは、魚の揚げ物とサラダを注文した。


 味付けは帝国とは異なっていて、迷宮都市のものに近かった。

 しばらくは食事を楽しみながら、三人で雑談した。



「ねぇ、ユージンくん。あの映像って天頂の塔の様子だよね?」

 スミレが指差す方向には大きな中継装置(サテライトシステム)があった。


 画面ではリュケイオン魔法学園の生徒が、どこかの階層主(ボス)へ挑戦している。


「みたいだな。扱ってる武器からして『槍術部』かな」

 探索隊のメンバーは全員が槍を構えている。

 こういった統一された装備の場合は、部活メンバーであるケースが多い。


「おそらく50階層のボスへ挑戦してるんでしょうね。学園祭の『武術大会』に出場する条件が50階層以上を突破した探索者だから」

「サラちゃん、詳しいね」

「これでも生徒会長よ。当然でしょ」

「学園祭の武術大会か……」


 昨年は参加資格がなかった。

 そもそも攻撃手段すらなかった。

 でも今なら……、という気持ちが表情にでたのかもしれない。


「ユージン参加したいの?」

 サラがこちらの顔を覗き込んできた。


「俺は……どうするかな。サラは去年参加してたよな」

「そうよ。準決勝で負けちゃった」

「へぇ! サラちゃんより強い人いるんだ!? 聖剣は使っちゃだめなの?」


慈悲の剣(クルタナ)を使っても勝てないのよ。剣術部の上位メンバーは、化け物揃いだから」

「あー、確かに剣術部は強いってレオナちゃんも言ってたかも」

 そんな会話を聞くと、出場したくなってくる。


 サラいわく、武術大会の当日に飛び入り参加枠というものもあるらしい。

 気が向いたら参加してみよう。


 食事を終えた俺たちは、自由時間にした。


 もっとも、俺の部屋にスミレとサラが乱入してくるので、ひとり時間はなかったが。


 騒がしいまま、空の旅は続いた。




 ◇翌日◇




 俺たちを乗せた飛空船が、迷宮都市カラフに到着した。


「やっと着いたー!」

「やっぱり地面が落ち着きますね」

 スミレが大きく伸びをして、サラは腕を伸ばしている。


 飛空船だと剣の訓練があまりできなかった。

 俺は訓練場に行きたいなと思いながら、上を見上げた。


 天を貫く最終迷宮・天頂の塔。

 見慣れた光景だったはずだが、懐かしさを感じた。


「じゃあ、ここでそれぞれ解散で……」

 俺がいいかけた時。



「サラ会長ー!」

 こちらに走ってくる人影があった。

 長い髪に上品な眼鏡をかけた彼女は……。


「あら、テレシアさん? 慌ててどうしました?」

 生徒会庶務のテレシアだった。


「どうしましたじゃないですよ! サラ会長が予定よりも長く滞在したせいで、仕事が山積みですよ!」

「あー、うん。はい……」

「ほら! 行きますよ! 私も手伝いますから!」


「ユージンー! スミレちゃんー!」

 サラは悲しそうな顔をしたまま、テレシアに引っ張られていった。

 俺とスミレは、それを見送るしかできない。


「おーい! スミレちゃん! ユージンさん、おかえりー!」

「レオナちゃん! ただいまー!」

 次にやってきたのは、体術部のレオナだった。


 てっきりスミレに用事があると思っていたら、俺の方にやってきた。


「ユージンさん。迷宮案内人のアマリリスさんって人から伝言を預かってるよ。なんでも組合に顔を出してほしいんだって」

「アマリリスさんが?」

 彼女は俺たちの探索隊の専属の迷宮案内人となってくれている人だ。


「なんだろう?」

「うーん、具体的には聞いてないんだけど真面目な理由らしいよ?」

「わかった。これから行ってみるよ。ありがとう」

 俺はお礼を言った。


「どういたしましてー。スミレちゃんはこれからどうする? 今は学園祭の準備で授業は休講が多いよ」

「そうなんだ!? どうしよっかなー」

「体術部で出し物やるんだけど、手伝いに来ない? 人力遊園地っていうんだけど」


「なにそれ!? 面白そう!」

「じゃあ、見学きてよ。火魔法使える人が欲しかったんだ」

「火魔法……あ、私だ」


 スミレとレオナは、きゃっきゃ話しながら去っていった。

 楽しそうだな。


 そういえば、生物部は毎回学園祭で『サーカス』をやることになってることを思い出した。


(まぁ、そっちは先輩方が勝手にやってくれるから俺はやることないんだけど)

 俺が担当している封印の第七牢『禁忌』にいるのは、外に出せない神話生物ばかりだ。


 ひとまず、一人になった俺は伝言に従い迷宮組合のある建物へと向かった。




 ◇




 俺は久しぶりに迷宮組合にやってきた。


 相変わらず、探索者で溢れている。


 ただ、普段と少しだけ違うのはリュケイオン魔法学園の学生探索者の姿が少ないことか。


 きっと学園祭の準備に生徒たちは忙しいのだろう。


 アマリリスさんの姿を探したが、その必要はなかった。


 俺を見つけたアマリリスさんが、すぐに飛んできた。



「ユージンさん! 待ってましたよ! こちらへ早く!」

 手を引っ張られ個室に連れ込まれる。

 何か問題があったのだろうか?


「何事ですか?」

「ユージンさん、これを見てくださいよ! 100階層の管理者からの手紙です」

「管理者……?」

 一瞬、考えてから明るい顔の天使の顔が浮かぶ。


 100階層の管理者・天使リータさん。


 俺はアマリリスさんから手紙を受け取り、その内容を確認した。

 そこには大きく、こう書いてあった。




 ――どーして折角作った百階層の『恩恵の神器』全然、受け取りにこないんすかー!!!




 百階層担当『リータ・アークエンジェル』




「……あ」


「なんて書いてあるんですか?」

 アマリリスが興味深そうに覗き込んでくる。

 俺はそれにすぐ答えられなかった。


(忘れてたわけじゃないんだけど……)

 ただ、後回しにしていた。



 それは天使さんからのクレームの手紙だった。


■感想返し:

>カミッラちゃん、なかなか面白いキャラだね!こういう娘なら多少雑に扱っても大丈夫そうだし、いろいろ使えそう。

→実は再登場の予定なかったんですが、感想にアイリの友人との話を期待している声が多かったように思ったので書きました。



■作者コメント

 書籍版、もし本屋で見かけたら(もちろん電子でもいいですが)手にとってくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ああ、約束の武器。 でもケルベロスの牙の剣があるんだよな。 いや、ご先祖は二刀流だったっけ?
[一言] 武器が2本、二刀流フラグか!?
[気になる点] グラシャ・ラボラス? アシュタロトとどっちが強いのかな?
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