202話 神の試練 その2
「エリー!」
「エリーさん!」
俺とスミレは現れた魔王の名前を呼んだ。
「おねーさんが助けにきてあげたわよー!」
魔王は上機嫌で上空から俺たちを見下ろしている。
「ユーサー王……これは……一体?」
第一騎士さんは警戒と戸惑いの表情で学園長と魔王を見比べている。
「第七の封印を解いたのか……、随分と思い切ったな、ユージン」
ユーサー学園長が感心したようにあごひげを撫でる。
「封印を解いたのはスミレですよ。一応、契約を結んで『一時的な解放』扱いになってます」
「なるほど。炎の神人族のスミレくんなら、わずかとはいえ、神性を保持している。天使族であるエリーニュス殿へ主従契約が可能というわけか。方法としては悪くない」
ユーサー学園長は納得したように頷く。
「大人しくエリーが戻ってくれるかは、賭けですけどね……」
正直俺やスミレの拙い契約と制約が有効かは疑わしい。
運命の女神様の教育係をしていたというエリーならいくらでも契約の穴を見つけていそうだ。
なんせ契約魔法は、運命の女神様の管轄なのだから。
その時だった。
タン! とエリーが俺たちの近くに着地する。
「あんたさぁ……?」
そして、腕組みをしてユーサー学園長に冷たい視線を向けた。
(あっ! そういえば魔王ってユーサー学園長を恨んでたっけ?)
やっぱり解放はまずかったか!?
「ユーサー王!」
第一騎士さんが慌てて、その間に入る。
「よくも私が封印されている時に、私の羽とか髪を『これはいい研究材料になる!』とか言って勝手に持っていったわね! しかも私が寝てる隙に血液まで採取しようとするし! このヘンタイ!」
エリーがびしっ! とユーサー学園長を指さした。
「……ユーサー学園長?」
これに関してはエリーが正しい気がする。
女性にそれはNGでは?
「ユーサー王……」
クレアさんすらユーサー学園長に非難めいた視線を送っている。
「うむ! なんせ木の女神様の愛人とすら呼ばれていた戦乙女の第一部隊隊長のエリーニュス・ケルビム殿が堕天して封印されているという奇跡! これは研究せねば無作法というもの! 貴重な研究素材であった! エリーニュス殿、改めてありがとう!!」
ユーサー学園長は全然悪びれてなかった。
「な、何なのこの男……」
エリーが珍しく引いている。
ユーサー学園長って、研究というか知識欲に関しては本当に変態なのかもしれない。
「ちょっと! 何を呑気におしゃべりしてるの! 赤い竜が怒ってるわよ!」
迷宮主が焦った声で叫ぶ。
……グルルルル
エリーに貫かれたはずの頭の一つがもう復活している。
「エリー、指示をくれないか」
俺は神刀を構えながら聞いた。
「そうねー、今のままだとちょっと戦力が足りないかしら」
エリーが周囲を見回して言った。
「いや、しかしこれ以上の助っ人は……」
俺がいいかけた時。
「ユージン、んっ♡」
「っ!?」
エリーに唇を奪われた。
ドクン! と熱い魔力が流れてくる。
普段よりも魔力の勢いが強い。
これが封印を解かれた魔王との魔力連結か……。
「「「「…………」」」」
スミレとサラとアイリと迷宮主がこちらをじとっと、湿度の高い視線を向けてくる。
……ちょっと気まずい。
「ぷはっ! よし! これで堕天の王の魔力で飛行魔法には強化がかかったわ。ほら、ついてきなさい。時間を稼ぐわよ」
そう言うやエリーが空宙に羽ばたく。
「ま、待ってくれ!」
俺は背中に『片翼』を出現させ、飛行魔法で慌ててそれに続く。
(ん?)
違和感。
普段から飛行魔法は使っているが、今は速度が桁違いにでる。
「さっきは私の魔力をユージンの翼に注いであげたから。飛びやすいでしょ?」
「……そんなことができるのか?」
「これくらいで驚くんじゃないの。ほら、赤い竜と遊ぶわよ」
そう言うやエリーは槍を構えて赤い竜に突っ込む。
――ゴオオオオオオ!!
赤い竜の七つの首から赤い閃光が縦横無尽に放たれる。
「クレアくん! 街に結界を!!」
「はいっ! ユーサー王!」
「生徒の避難は完了しています!」
「ありがとう、サラくん」
下からそんな声が聞こえた。
「ゆーくん! あぶない!」
スミレの悲鳴と、俺に赤い竜の口から放たれる閃光が迫るのは同時だった。
(弐天円鳴流・空歩!!)
空宙を蹴ってぎりぎり閃光を避ける。
一瞬、肌を焼くような痛みを感じる。
「ちょっとー、ユージン。ボーっとしちゃダメよ?」
「あぁ、気をつける」
エリーに注意され、改めて冷や汗が流れる。
さっきエリーから魔力を受け取っていなかったら、避けきれなかった。
………………グルルルルル
赤い竜は忌々しそうにこちらを…………いや、エリーを睨んでいる。
「随分と赤い竜に警戒されてないか?」
「んー、まぁ昔『奈落の底』で会ったことがあるし、覚えてるのかしら」
エリーはあまり気にしてなさそうに、優雅に赤い閃光を避ける。
その時だった。
バサ……バサ……バサ……バサ……
という大きな風切り音が複数。
こちらに近づいてきた。
「あれは……」
「援軍が来たわね」
エリーは予想していたかのような表情だ。
やってきたのは――竜の群れだった。
そして、竜たちには見覚えがあった。
「ピカ―!!」
その中でも黄金に輝く竜が俺の近くに寄ってくる。
「ピカリュー?」
第六の封印牢にいるはずの竜だった。
つまりこの竜たちを従えているのは……。
「……ユーサー王。遅くなりました」
竜の群れの中の一匹の竜に乗ってやってきたのは、生物部のメディア部長だった。
「メディアくん、すまない。無理をさせてしまい」
どうやら呼んだのはユーサー学園長らしい。
確かに天頂の塔の第十位記録保持者のメディア部長が来れば心強い。
が、部長は神竜の呪いで普段は寝たきりだ。
赤い竜との戦いに参加してもらうのは酷なんじゃ……と心配になった。
「へぇ、……あの子、『竜の巫女』じゃない。珍しいのがいるわね」
エリーがニヤリと面白そうに笑う。
「竜の巫女……って、メディア部長が?」
「そうよ。かつて聖神族との戦でやぶれた『竜の神』の一族がこの世界に遺した力の残滓。いずれこの世界に再び戻ってくるという『竜の神』の伝言役。もうとっくに居なくなったと思ってたけど、まだ残ってたのね」
「メディア部長は神竜の呪いにかかってるって言ってたけど……」
「うーん、まぁ、呪いみたいなもんでしょ。この世界を追い出された『竜の神』の力を無理やり与えられたって、人間の身体じゃ負担なだけでしょうし。それにあんまりうまく力を制御できてないみたいね」
「エリーは正しい使い方がわかるのか? だったらそれをメディア部長に教えてあげたら」
と言いかけて気づく。
今はゆっくり話している場合じゃなかった。
が、赤い竜の様子がおかしい。
あきらかにメディア部長を注視している。
メディア部長は学園唯一の『竜使い』だが、まさか神獣の赤い竜は対象外だとおもうのだが。
「ラッキーね。『竜の巫女』は、全ての竜たちの頂点である『竜の神』の代弁者。その力をまったく制御できてない未熟な『竜の巫女』であっても彼女を殺すことは『竜の神』に歯向かうことに等しい。赤い竜の行動は制約されるわ」
「そ、そうなのかっ……!」
だったらメディア部長は居てくれるだけでも助かる。
ユーサー学園長が、この場に呼んだ理由がわかった。
「けほっ……けほっ……」
メディア部長は辛そうだ。
「すまない……本当に」
ユーサー学園長がメディア部長の背中をさする。
「いえ……ユーサー王のためなら……どんなことでもしますから……」
メディア部長が頬を赤らめて、ユーサー学園長を見つめる。
(ん?)
あんな部長を見るのは初めてだ。
「ねぇ、あいつらってデキテルの?」
エリーの質問に俺は「知らない」と答えた。
ただ……少なくともメディア部長はユーサー学園長に好意を持っているようだ。
意外だ。
生物部で集まった時には、恋愛話とか誰もしないから。
ユーサー学園長の隣の第一騎士さんが面白くなさそうな顔をしている。
なんにせよ、メディア部長は強力な戦力だ。
居てもらえるだけで、赤い竜の行動が制限できる。
「エリー、これでやっと赤い竜に挑め……」
俺がいいかけた時。
ドーーン!!!!!!!
と上空から巨大な赤い彗星のような物体が、赤い竜に激突した。
「くっ!?」
「派手な登場ねー」
俺は慌てて剣を構え、エリーは余裕の顔で眺めている。
……クアァァァァ
赤い竜の頭の一つが潰れている。
さっそく再生しているが。
モクモクと土煙が上がる中、赤い人型の光が宙に浮いていた。
「なにこれー!! 面白そうなことになってるじゃないー!」
明るい声が響く。
声の主はエルフの女性だった。
若い美人なエルフの女性。
真っ赤な髪と、身体を纏う真っ赤な魔力。
炎の神人族や魔王に匹敵するほどの魔力量だ。
手に持つ杖は、おそらく名のある魔法の杖だろう。
この距離でもわかる。
とんでもない使い手だ。
エルフの女性は、まっすぐこちらを……魔王を見つめた。
「はーん、南の大陸を支配してた魔王堕天の王が復活したってわけね! よーし! じゃあ、張り切って倒しちゃうぞー☆!」
「はぁ?」
エリーが不機嫌そうな声をあげる。
「違うわよ、ママ! 敵は神獣だから!」
と叫ぶ声が聞こえる。
避難したはずのレベッカ先輩だった。
どうやら空間転移で戻ってきたらしい。
(えっと……レベッカ先輩のママ? ってことは)
その記憶を呼び起こす前に。
「ロザリーくん。魔王エリーニュスは、こちらの味方だ。我らの敵は世界を終わらせる神獣『赤い竜』だ」
ユーサー学園長の声で思い出した。
――ロザリー・J・ウォーカー
天頂の塔の第九位記録保持者だ。
彼女を呼んだのはおそらく……
「わー、久しぶりー、ユーサー先生☆」
レベッカ先輩のお母さんこと、ロザリーさんがしゅたっとユーサー学園長の隣に移動する。
「よく来てくれた、ロザリーくん。君はいつも連絡がつかないから心配だったのだが」
「もうー、私と先生の仲じゃないですかー☆ いつだって駆けつけますよ☆ ところで、今夜は付き合ってくれるんですよねー♡」
ロザリーさんがユーサー学園長の腕に自分の腕を巻き付ける。
え?
今夜って、そういう関係?
「…………」
「…………」
クレアさんとメディア部長が、不機嫌になっている。
「…………」
レベッカ先輩が何とも言えない表情になってる。
そりゃ、母親が男性に迫るところなんて見たくないよな。
というか、ロザリーさんは既婚者のはずでは。
(それにしてもロザリーさんって見た目がめちゃ若いな。レベッカ先輩のお姉さんくらいにしか見えない……)
この辺は長寿種のエルフ族だからだろうか。
それにしても若すぎる気がする。
「あのエルフ、命の実を食べて若作りしてるわねー」
エリーがぼそっと呟いた。
「そ、そうなのか?」
見ただけでわかるのか。
「ま、これで揃ったかしら」
エリーに言われ、俺は改めて周囲を見た。
迷宮都市における最強の探索者たちと、復活した魔王。
おそらく集められる南の大陸の最高戦力が集結しているはずだ。
「では、改めて挑戦しようか」
ユーサー学園長の声に、俺たちは小さく頷き見上げるほど巨大な赤い竜に向き合った。
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『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。
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次回の更新は、2026年1月18日(日)です。
■感想返し:
>エリーが最高にメインヒロインをしていて素晴らしかったです。
>物語の序盤から中盤にかけて、危機に陥ったヒロインを救う主人公は王道展開です。
っぱ、看板ヒロインですからね!
最後は表に出てもらいました。
■作者コメント
最後の戦いなのでお祭りっぽく集合させてみました。
■その他
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