200話 崩壊の日 その3
――ゴア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!
――ギア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!
――グア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!
赤い竜が怒りの咆哮を上げる。
咆哮に呼応するように地面が揺れ、風が吹き荒れる。
生きた天災が暴れていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
俺は地面に膝をつき、肩で息をした。
「だ、大丈夫!? ユージン」
迷宮主が俺の背中をさする。
「もう一度……魔力をくれ。全部、……使い切った」
「ちょっと、休んだほうが……いえ、わかったわ」
アネモイが俺の手を掴む。
トクン……と熱い魔力が俺に流れ込んできた。
(よくあれに挑めたな……)
さっきの攻撃は絶対に外せない、必ず止めると決めていた。
しかし怒り狂う『赤い竜』にもう一度挑めと言われても、さっきのような一撃を入れる自信がなかった。
俺以外の残っていた探索者たちも青い顔をして腰が引けている。
「天使殿、『神の試練』の開始を宣言していただきたい」
学園長だけがマイペースだ。
世間話をするように天使さんへ話しかけている。
それもより驚いたのは、その内容だ。
それは天使さんも同じだったらしい。
「えっ!? い、いいんですか!? 迷宮主様が予定していない例外的な神獣召喚ですよ! 『神の試練』の宣言をすると誰かが戦わないといけなくなる……」
天使のマリエルさんが戸惑った声を上げる。
「だからこそ、ですよ。今の赤い竜は例外的な神獣召喚により帰還方法が定まっていない。しかし、神の試練の奇跡に組み込んでしまえば『時間制限』によって、帰還させることができる。赤い竜をもとの場所に還すには、それしか方法がないのですよ」
ユーサー学園長の言葉にマリエルさんははっとしたようだ。
「な、なるほど! では、大天使マリエルの名において『神の試練』の開始を宣言します! ……えっと、挑戦者は……」
マリエルさんがこちらを見つめる。
「ユージン・サンタフィールドは『神の試練』に挑戦する!」
「クロード・パーシヴァルも挑戦するぞ!」
俺とクロードは迷わず宣言した。
「挑戦を受理します」
マリエルさんが頷く。
「他はいませんか……?」
と俺たちを見回しながらマリエルさんが尋ねる。
「「「「「…………」」」」」」
残ってるS級探索者たちは、全員赤い竜の迫力に腰が引けているようだ。
そこに口を挟むのは、やはりユーサー学園長だった。
「天使殿、挑戦者の受理はどれくらい待てますからな?」
「え、えっと……具体的な規則はないですがおおよそ15分くらいは……」
「十分です。では少々お待ち下さい。ああ、あとユーサー・メリクリウス・ペンドラゴンも挑戦者に含めておいてください」
…………グルルルル
…………ガルルルル
赤い竜の口から機嫌の悪そうな唸り声が聞こえる。
俺が付けた傷はとっくに塞がっていた。
「学園長、どうするつもりですか?」
俺が尋ねると、その質問には答えられなかった。
「ユージン、クロード。見てみたまえ、赤い竜が不機嫌そうだ。『神の試練』の挑戦者が確定するまで、待機を強制されている。この制約の魔法術式は『天頂の塔』の初期設計に携われた女神たちの長、太陽の女神様による奇跡だな。いかに赤い竜といえど抗えない」
ユーサー学園長が楽しそうに説明する。
「…………」
俺は改めて赤い竜を見上げる。
不機嫌そうにこちらを見下ろし、唸り声をあげている。
赤い竜の周囲にうっすらと黄金の鎖のようなものが見えた。
が、術式は読めない。
あまりに高度で繊細。
人間の扱える魔法術式ではなかった。
俺はそれを理解することは諦めた。
代わりに質問をする。
「……学園長は何者ですか?」
俺はさっきのとは違う質問をした。
学園長は明らかに、俺やクロードと同じ『前回』の記憶を持っている。
またはぐらかされる、と思っての質問だったが……。
「私はこの世界の人間ではない」
意外にも答えが返ってきた。
「学園長?」
「ユーサー王?」
俺とクロードは言葉の意味がわからず、首をかしげる。
「私は時人族というここより遥か遠い銀河系からやってきた異世界人だ。スミレくんとは違う世界だな」
……冗談、なのだろうか?
しかし、ユーサー学園長の表情は真剣だ。
ふざけている様子はまったくない。
「我らの一族は、時間を超えて活動ができる。前回の赤い竜による、迷宮都市と学園の崩壊から生き延びたユージンやクロードの行動を、私は視ることができた。……もっとも、ここまでたどり着く可能性はかなり低かった。だからあれは分の悪い賭けだった。よくぞ戻ってくれた」
――やれやれ、そのおかげでボクはキミの知性を食べそこねたわけだ。まったく残念だよ。
ぽわんと、透明な人影が現れる。
目を凝らさなければ見えないくらい、儚い人影は……。
「魔神さま?」
それは魔法のランプに封印されているはずの魔神様だった。
――今のボクはクロードくんと契約しただけだからね。しかも対価が未払いだ。君たちのサポートはできないよ。
「ふむ……それは困りましたな。魔神さまの御力はぜひお借りしたいところ」
ユーサー学園長が呟くのを俺は聞き逃さなかった。
「学園長! また犠牲になる気じゃ……!」
「いや、流石に前のようなことはしないさ。が、魔神様の御力は惜しい。……古い神族の忘れられし知恵の女神さま。私がこれまで見てきた眼と交換で力をお借りできませんか?」
――ふぅん、時人族である君の眼か。まぁ、前回ほどじゃないにしても悪くないね。一度だけ、チカラを貸してあげよう。
「十分です、感謝します。女神様」
――魔神だと言ってるだろう。そろそろ怒るよ?
「失礼しました、魔神様」
そんな雑談をしていると。
「ユーサー王! 十二騎士、揃いました!」
第一騎士クレアさんが、他の十二騎士を引き連れ現れた。
「ふむ、ありがとう。相手は強大だが力を合わせて『時間稼ぎ』をしよう。天使殿、ここにいる十二騎士たちを挑戦者に含めてほしい」
「受理します……あと三分ほどで神の試練を開始します。これ以上は待てませんよ」
…………グルルルル
…………ガルルルル
赤い竜が鬱陶しそうに巨体を捩る。
黄金の鎖が千切れかけているのが見えた。
「なに、あと1分でそろいますよ。ほら、きた」
という学園長の言葉通り。
「ユージン!」
「ユウ!」
サラとアイリが着いた。
その後ろにはロベール部長もいる。
他の剣術部員はいないようだ。
「これは……神獣なのか?」
「終末の赤い竜……らしいですよ、ロベール部長」
「世界を滅ぼす神話怪物が……学園の隣に現れるとは」
いつも落ち着いているロベール部長の声が上ずっている。
「みなさんも挑戦者でいいですか?」
マリエルさんがこちらに尋ねる。
「ええ、挑戦します。天使様」
「挑戦するに決まってるでしょ!」
サラとアイリが宣言する。
「私もだ。挑戦しよう」
ロベール部長が剣を構える。
(スミレがまだ来ていない)
間に合わないか、とそわそわしていると。
「ゆーくん!!」
こっちに駆けてくる白いローブの女の子の姿が見えた。
「スミレ! 神の試練への挑戦を宣言してくれ!」
「えっ!? えっと、……わかった! 指扇スミレは神の試練に挑戦します!」
ぎりぎり間に合った。
「受理します。そして時間です。これより天頂の塔0階層。赤い竜に対する『神の試練』を開始します」
天使さんが厳かに告げた。
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次回の更新は、2026年1月4日(日)です。
■感想返し:
>学園長と肩を並べて戦う時が来たのか。これは熱い
やはり学園長は頼りになりますね。
あと、学園長の正体が明らかになりましたね。
モデルになったのは、クトゥルフ神話のイースの大いなる種族です。
もともと人間じゃないのは度々言ってきたので、今さら感ありますが。
■作者コメント
みなさま、よいお年を!
■その他
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