198話 崩壊の日 その1
「………………」
目が覚めた。
外はまだ暗い。
俺は寝袋から出て立ち上がり、大きく伸びをした。
その場で軽く屈伸する。
スミレたちはまだ寝ている。
俺はみんなを起こさないように、ゆっくりと生徒会室のベランダに出た。
朝の空気は冷たい。
あと数十分で夜が明ける。
そして『赤い竜』が地上に顕現する。
迷宮都市の民は、その異常事態に警報が鳴り響き、叩き起こされるはずだ。
「おはよう、ユージン」
後ろから声をかけられた。
サラが少し緊張した面持ちで立っている。
「おはよう、サラ。はやいな」
「ユージンも、でしょ」
「そうだな」
お互い苦笑する。
俺とサラは並んで2階にある生徒会室からリュケイオン魔法学園と迷宮都市、そして天頂の塔の風景を眺めた。
「今から『赤い竜』がやってきて全てを壊すのよね……」
「あと三十分ってところか」
サラの声が固い。
そして俺も。
「先に待ち構えておくのは……ダメなのよね」
「それはやめたほうがいい、という魔神様の助言だった」
かつて『赤い竜』が地上に現れた時。
俺たちは知るよしもなかったが、天界や魔界の神々から注目を浴びていたらしい。
だから赤い竜の前で『未来を知っている』かのような行動をしてしまうので非常にまずい。
少なくとも赤い竜と対面する前では、前回通りに行動をしたほうがいい。
――迷宮都市の緊急警報が鳴ってから天頂の塔へ駆けつける。
それが今日の俺たちがする最初の行動だ。
だからこの時間はただ待っているだけ。
もどかしい。
「お、おはよう~……」
俺とサラが黙って外の景色を眺めていると、スミレが眠そうな目をこすってやってきた。
「おはよう、スミレ」
「おはよう、スミレちゃん」
スミレはふらふらと俺の隣まできてそのまま身体を預けてくる。
そしてぎゅっと抱きしめられた。
柔らかい身体と胸が押し付けられる。
スミレの体温が高い。
「スミレ?」
「ちょっとこのままー。充電中~☆」
とよくわからないことを言われた。
どちらかというと俺がスミレから魔力を借り受けているんだけど。
まぁ、いいか。
「ちょっと! ずるいわよ、わたしも!」
サラまで俺に抱きついてきた。
「お、おい。二人とも」
「サラちゃん、狭い!」
「スミレちゃんが遠慮しなさい!」
さっきまでの真剣な空気が霧散する。
しばらく二人にもみくちゃにされていると。
「騒がしいな」
クロードが起きてきた。
「おはよう、クロード」
「おはよう、朝からお盛んだなユージン」
「ち、違うよ、クロードくん」
「そうよ! 変な言い方しないで」
その言葉にスミレとサラが赤くなって、俺から距離をとった。
そしてふと気づく。
「アイリは?」
「まだ寝てるんじゃないか?」
クロードと俺が視線を向けるとアイリの赤い寝袋はまだ膨らんでいる。
それはそっちにゆっくりと近づき、寝袋の生地をめくる。
「くー……」
幸せそうな顔をしたアイリがぐっすり眠っていた。
(俺たち全員が緊張で目を覚ましたのに……)
まるで起きそうにない。
緊張をして寝れないよりはずっといい。
(そういえばアイリって朝弱かったっけ……?)
ギリギリに起こすと機嫌が悪くなりそうだ。
「おーい、起きろー。アイリー」
俺がぺちぺちと頬を叩く。
「んー……?」
少し不機嫌な声と共に、ゆっくりと青い目を開く。
「おはよう、アイリ」
「…………」
返事はなかった。
半分夢の中にいるような虚ろな瞳でこちらを見つめる。
「おーい、そろそろ……」
俺が言いかけた時。
「うるさいわね」
とアイリが言うと同時に腕を俺の首の後ろに回された。
(は、はやい!)
弐天円鳴流の無手の技を思わせる動きで、俺は一瞬で身体を拘束され……
「ユウ、んー♡」
「っ!?」
アイリに唇を奪われた。
こいつ、まだ寝ぼけて……。
振り払うわけにもいかず、俺がしばらくそのままにしていると。
「あら? ユウ? 何してるの?」
「こっちのセリフなんだが」
やっと意識がはっきりしたらしい。
「ゆーくんー?」
「ユージン?」
服を後ろからひっぱられアイリから引き剥がされた。
振り返るとスミレとサラが冷ややかな目でこちらを見下ろしている。
「アイリちゃん、顔洗ったら?」
クロードが苦笑いしながら声をかけている。
「!? みんな起きてたのね」
アイリが少し気恥ずかしそうだ。
手早く寝袋から出て、服を正した。
寝癖をスミレが直してあげている。
これで全員が目を覚ました。
俺は皆を見回した。
「あと10分くらいで警報が鳴る時間だ。そしたらもうゆっくりする時間はない。おのおの一番楽な方法で心を落ち着けてくれ」
皆が小さく頷いた。
スミレはいつも使っている魔導書を読んでいる。
サラは両手を組んでお祈りをしている。
クロードは槍を手にもって瞑想しているようだった。
俺とアイリは……。
「ユウはこういう時何をするの?」
「何も。普段通りだよ」
「そうよね。ユウって緊張しないの?」
「一応、してるんだが」
「うそ、帝国軍士官学校の試験でもいつも冷静だったし、今も全然落ち着いてるし」
「そう見せてるだけだよ」
そんな雑談をしていると。
――緊急警報! 緊急警報!
静かな朝に切羽詰まった迷宮組合からの拡声魔法が響く。
――迷宮都市にいる探索者は、いますぐ天頂の塔へ集合してください! 繰り返します……
「行こう」
俺は皆に声をかける。
こうして迷宮都市とリュケイオン魔法学園が『崩壊する日』がはじまった。
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次回の更新は、12月21日(日)です。
■感想返し:
>感極まって抱きつくほど、リリーに好意を持っていたっけ?
>それだったらもっとユーサーの再会の時とか、感情が溢れる感じにならないかなあ?
>ユージンはどっちかっていうと淡白な方だから、どちらにしても多少の違和感があるんだけど。
学園長の時は平静を保とうと、ユージンが心がけていたからですね。
リリーは不意打ちであったのが、ユージン的には動揺したみたいです。
■作者コメント
この原稿は土曜の午前に書いてますが、続きが夜に書けるかどうかがまだ不明。
短かったら力尽きたということです。
■その他
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