196話 ユージンは、魔王と会う
……ギギギギ、と重い音を立てて黒い扉を開く。
そして、扉の隙間から身体を潜らせて急いで扉を閉じた。
黒い扉の先は、地下に繋がる階段になっている。
ほとんど光源のない暗い階段をゆっくりと降りる。
その先は更に暗い通路だ。
……ケラケラケラ
という悪霊たちの笑い声が聞こえる。
テケリ……リ……テケリ……リ……
こっちは名前も知らない神話生物だ。
普段は寝ていることが多いが、今日は起きていた。
(いつきても慣れないな)
奇妙な鳴き声と、冒涜的な視線のほうは見ないように俺はまっすぐに歩いた。
一番奥にある堕天の王の牢を目指す。
妙な声や気配が聞こえてなくなってきた頃、やっと目的の場所へたどり着いた。
この封印牢は魔王が閉じ込められているだけあって、格別に強い封印がかけられてある。
(あれ?)
俺がいつものように封印を一時解除しようとしたが、すでに封印が解かれていた。
まさか脱走してないよな?
俺はゆっくりと扉から中に入り、封印を元に戻す。
中から声が聞こえてきた。
「た、助けて……」
スミレの声だった。
「スミレ!!」
俺が慌てて声のほうへ駆けつけると。
「…………え?」
俺の間の抜けた声が口から漏れた。
「ユージン?」
「ゆーくん、助けて!!」
エリーに押し倒されているスミレがいた。
服装がやや乱れているが、それだけだ。
怪我などはしていない。
「何やってるんだ?」
ひとまず危険な状況じゃなさそうなので尋ねる。
「エリーさんに襲われたんだよ!」
「スミレから魔力を貰ってたの」
スミレは必死の表情で叫び、エリーはあっけらかんと言う。
「普通に魔力連結すればいいだろ」
俺は部屋にある適当な椅子に腰掛ける。
とりあえず三年前に戻ってもエリーとスミレは仲良さそうでよかった。
「スミレの様子がいつもと違ったから、確かめる意味も込めてね☆ あんたたち、面白いことになってるじゃない」
「「…………」」
俺とスミレは黙って目を見合わせた。
エリーに声が届かないよう小声で語る。
(スミレ、エリーにはどこまで話した?)
(何も話せてないよ! 私を見た瞬間、こっちにきなさいってって言われて押し倒されたよ! 急に魔力連結されるし、身体中を色々弄られるし最悪だったよ!)
「あらあら、気持ちよかったくせに☆」
聞こえているらしい。
「気持ちよくない!」
「エリーなんでそんなことを」
女同士でもセクハラだぞ。
「そりゃ、そうでしょ。ちょっと会わない間にスミレの中身が『別人』になってるんだから、気になるでしょ。ま、さっき調べて大体のことは察しがついたけど」
「別人……?」
「そうね。まるで精神だけが三歳年を取ったような感じかしら? まさか異界門にあんな隠し機能があったなんてね」
(全部、把握されてる……)
迷宮主とは随分な違いだ。
話がはやい。
「エリー、頼みが……」
俺が口を開こうとした時。
「その前にやることがあるでしょ」
ぐいっと引っ張られた。
そのままベッドに寝かされる。
「エリー、こんなことをしている場合じゃ……」
俺が反論を口にしようとした時。
「明日は『大変』なんでしょ? 魔王の魔力を受け取っておかなくていいの?」
「っ!?」
見下されながらエリーの言葉に俺の反論はかき消される。
(そうだ……明日は)
赤い竜が地上へやってくる。
そして、リュケイオン魔法学園と迷宮都市が蹂躙される。
それを防ぐために俺は過去に戻ってきた。
「わかってるじゃない」
エリーの顔がゆっくりと近づいて、やがて視界いっぱいに広がった。
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次回の更新は、12月7日(日)です。
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>壁ドンならぬ針ドンという新しい迫り方。未来のご本人が許してくれなきゃ、とても許されないなw
>アネモイは何というか生意気な子猫って感じで、3年後のユージンに懐いているような様子がとても可愛い
針ドン!
その発想はなかった!
■作者コメント
また体調を崩したので今日は寝ます。
■その他
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