190話 500階層 神の試練 その2
「ムリだよーー!!」
スミレが両手を上げてパタンと地面に倒れた。
サラとアイリとクロードも地面に倒れている。
全員ボロボロだ。
「あらあら、だらしないわねー」
エリーが槍を杖のように立てて、顎を乗せてこちらを見ている。
こちらはまったくの無傷。
背中にある純白の翼がまだ見慣れない。
俺はなんとかまだ立っていたが……、流石に100回戦って勝ち筋のひとつも見えないのは心が折れそうだ。
「もうおしまいよー! やっぱり女神様はお怒りなんだわ! 500階層の神の試練を突破させる気がないのよー!!」
少し離れた位置で迷宮主が騒いでいる。
(あいつはいつも落ち着きがないな……)
とはいえ、焦るのはわかる。
俺は構えた黒剣を降ろし自然体のままエリーと向き合った。
「次はユージンが一人でくるのかしら?」
エリーはまだ槍を構えてすらいない。
が、仮に俺が不意打ちで弐天円鳴流を放っても、エリーはそれを知っていたように避けるだろう。
エリーの予測能力は未来視に近い、らしい。
と魔神様が言っていた。
「ちょっと考える時間がほしい」
俺はそう言って頭を掻きむしっている迷宮主のほうに近づいた。
「アネモイ」
耳元で名前を呼ぶ。
「っ! ユージン!?」
白髪の少女がぱっと振り向いた。
「聞きたいことがある。あのエリーの強さは500階層の神の試練の強さを大きく上回ってるんだよな?」
「そ、そうよ! あんなの私だって勝てないわよ! 天頂の塔の管理をしてくれてる他の天使の戦闘力はそこまでじゃないのに、あの女の強さはおかしいでしょ!」
キー! とアネモイが地団駄を踏んでいる。
――ま、しょうがないさ。戦乙女第一隊は、木の女神の近衛隊だ。天使の強さは、神から与えられる役割で決まるからね。天頂の塔で探索者の案内をする役割の天使と、木の女神の身辺を警護する精鋭部隊の隊長じゃ、比べるようなものじゃないよ
魔神様の呟きが聞こえた。
(500階層の難易度を大きく超えた試練……つまり木の女神様から与えられた試練は天頂の塔だけを見たものじゃない)
おそらくはこの先で待っている三年前の怪物。
赤い竜と戦えるように設定された試練だ。
(ただ……あいつの強さがな)
パタパタと白い翼を優雅に羽ばたかせ、座天使さんと雑談をしている智天使。
こっちを見てないようで、一切の隙がない。
このままだと十年間挑んでも、負け続けそうだ。
だから、何かしらの変化が要る。
(アネモイ、手伝ってくれ)
俺は盗み聞かれないよう、念話で話しかけた。
三年間、天頂の塔で一緒に過ごしたことで念話はできるようになっている。
近い距離におる時に限るが。
(手伝うって……できるわけ無いでしょ! 私は迷宮主よ!?)
(あからさまじゃなくてもいい。俺の動きに合わせて迷宮の罠をしかけるとかでもいい。エリーの意表をつきたい。頼む)
(で、でも……これ以上、問題行動を起こすわけには……)
(まぁ、それは確かに……)
三年前のやらかしはでかい。
(……大丈夫だと思うよ)
俺とアネモイの念話に割り込んできたのは魔神様だった。
(魔神様、どうして大丈夫だと?)
(この試練の様子は木の女神が天界から視ているはずだからね。100回、挑戦に失敗をしている探索者に手を貸さないほうが不義理ってもんだろう? 木の女神は規則より実利のほうを好む。迷宮主ちゃんが手伝ってあげたほうが、評価は高いと思うよ)
(わ、わかりました……。ユージン、手伝うわ)
(よし! じゃあ、行ってくる。最初に何度か戦って負けたあと、仕掛けるタイミングはアネモイに任せる)
俺は迷宮主と距離をとり剣を構えた。
「エリーいくぞ」
「ふーん、何か企んでいるみたいね」
ニヤニヤとしならが槍を構えるエリー。
俺は何も応えず、弐天円鳴流の奥義『麒麟』を放った。
カウンターで、あっさりと吹き飛ばされる。
その後も、何度か挑んでは地面へ叩きつけられた。
そして、107度目の挑戦の時。
――地面が大きく揺れた。
(きた!)
俺はアネモイのほうは振り向かない。
が、天頂の塔で起きる変化はあいつが起こしたはずだ。
そして、この変化は地震だけで終わらないはずだ。
エリーが使っている予測は、未来視ではない。
予測は過去と現在から未来を推測しているに過ぎない。
事前情報のない、迷宮主の助けを予測はできないはず。
俺は一気にエリーに向かって空歩で距離を詰めた。
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■感想返し:
>めちゃくちゃ努力してたから肉薄するかと思ったら予想外にボロ負けでワロタ
→全盛期エリーは強いですね。
■作者コメント
体調不良で倒れてます。
今回も短くてすいません。
皆様もお気をつけて。
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